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第19回 三つの2007年問題−その5
2006年1月
武藤泰明

 最後の2007年問題は、外国企業との三角交換の解禁です。ご存知の方も多いと思いますが多少解説すれば

  • 日本企業の株式を外国企業が保有することは、放送など特定の業種を除けば、とくに制約がありません。
  • ただし、直接的に株式を買い集めるのではなく、株式交換などによって買収を行うことは禁じられてきました。
  • 現在認められているのは、したがって、外国企業が直接ないし在日子会社を通じて、日本企業の株式を取得するという方法です。
  • 外国企業の在日法人にも「三角交換」が認められるということは、在日子会社が、親会社の株式(つまり外国株)等と当該企業の株式を交換することによって当該企業を傘下におさめることが可能になることを意味しています。
  • したがって事態的には、外国企業が日本の企業を買収することが可能になることを意味しています。
  • 外国企業が日本企業を直接買収することとの違いは、買収後の親会社が国内企業になるという点です。とはいえこの親会社は外国企業に支配されているので、実態としては、外国企業による国内企業支配が可能になるといってよいでしょう。
ということになるのです。

 このような規制緩和は、予定では2006年の会社法の改正と同時に行なわれるはずでした。それが一年延びたのは、村上ファンド、あるいはライブドアによる、いわゆる「ニッポン放送事件」により、与党が規制緩和を時期尚早と判断したためです。事件というと法的に問題がありそうですが、これはそのような意味の事件ではなく、一種の「とまどい」というべきものでした。すでに国内の上場会社の中には、株主の過半が外国法人という例も多いのです。その意味では、施行が一年遅れたことは、政治判断ということになるのでしょう。

 間違いないのは、買収するのが外国企業であれ国内企業であれ、M&Aが日常的に行われるようになったのだという点です。ここで「日常的」というのは、M&Aの件数が増えたということだけではありません。日本において企業合併や買収は、これまで主に、不振企業を救済する手段でした。しかし今日では、M&Aはこれにとどまらず、健全に経営され、利益を計上している企業を対象に行われるようになっています。株価が割高ではない企業は、例外なくM&Aの対象として検討されるようになったのだということができるでしょう。

 企業社会のこのような変化は、会社で働く人々が持っている暗黙の了解に修正を求めるものだということができます。これまでは、会社は永遠であり、個人の職業生活は有限でした。ジャイアンツの選手を引退する時、長島茂雄さんは、自分が所属していたチームは、永遠に存在すると唱えることができました。そしてこの心情は、日本の平均的なサラリーマンにも共有され得るものだったということができるでしょう。しかし、最近のプロ野球の変化が示しているのは、長嶋さんの予言が成就しなかったということです。

 ドラッカーは、会社の寿命は、個人の職業生活の期間より短くなったと言っています。ソビエトをはじめとする東欧の社会制度も、平均的な職業生活よりは長く存在しましたが、まあ平均的な寿命と同程度存続し得た程度であったということになるのでしょう。日本人が自分の生活のいわばインフラストラクチャーだと思っていた企業は、そのインフラの上に乗っている人間より、寿命の短い、あやういものになってしまっているのです。



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