企業が定年退職者を手放せないのは、ポストバブルの影響で会社の中に若手が居らず、ベテランの技術を伝承しようにも相手がいないからです。では、企業経営が回復した現在は、若手を充分採用することができるので、技術伝承の問題も解決に向かうのでしょうか。
結論を先に言えば、これは難しい。なぜなら、若い人が絶対的に不足しているからです。
このシリーズの第1回にも示したとおり、若年層の減少は、大学では「志願者全入」という2007年問題として認識されています。
はじめに大学の2007年問題を概観するなら、文部科学省は、子供の数が減り、定員割れする大学が続出しているにもかかわらず、学部や学科の新設と定員増を認めています。これでは、定員を充足できず経営難に陥る大学が増加するのは当然だといえるでしょう。
ではなぜ文部科学省はこのような事態を容認しているのか。容認というのは変で、許可しているのは文部科学省自身ですから、見方によっては、定員割れを「演出」しているということになるのでしょう。
おそらくこの理由は、文部科学省が大学という産業に、一種の市場原理を持ちこもうとしているからなのだと私は考えています。
何十年も同じ名前の学部や学科があってもおかしくない学問領域があります。というより、ほとんどの学部や学科は、学問領域という観点からは、存続し続けることが可能だし不自然でもありません。
しかしその学部や学科の卒業生に対する社会からの需要も継続的かというと話は別です。たとえば小児科医の養成に対する需要は、子供が減った分、少なくなっているでしょう。これに対して社会福祉を学んだ学生への需要は急増しています。すなわち、人材養成機関としての大学が持つべき機能は、時とともに変わっていくのです。そして、これに対処するためには、今後必要度が高まると思われる分野の教育を拡充しようとする大学に、定員増を認めなければなりません。逆に社会的要請が少い学部・学科については、事態にあわせた定員の縮小が必要になるのです。したがって、大学は規模を維持ないし拡大しようと考えるのであれば、
- 既設の学科に工夫をこらして魅力度を高める
- 需要の多い学部や学科を新設する
等の施策が必要になります。これが市場原理です。
ほとんどの大学にとって、大学の魅力度を決める重要な指標は就職率です。したがって、学部や学科の改編の多くは、「就職に強い大学」になることを目的として行われることになります。
教科書的にいえば、マーケティングという活動が必要になるのは、需要より供給が多いためです。日本の高度成長期には、供給が需要に追いつかず、「作れば売れる時代」だったので、企業は、あまりマーケティングの必要を感じませんでした。マーケティングが企業業績を左右するようになったのは、昭和でいえば四十年代に入ってからのことでした。
大学の世界では、進学という需要が定員という供給より少なくなるという、企業社会が40年前に経験した変化が進展しつつあります。この結果、大学には学生を集めるためのマーケティングが必要になりました。そしてその有力な手段のひとつが、就職に強い大学になることなのです。