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第15回 三つの2007年問題−その1
2005年9月
武藤泰明

 半世紀近く前に手塚治虫が考えたとおりの未来が訪れているとすると、鉄腕アトムは、もう生まれていることになります。AIBOは、アトムのレベルにはまだちょっと、という感じ。気象衛星が何とか軌道に乗って、ほっと胸をなでおろしているというのが、今の科学技術水準。予測より現実は、かなりゆっくりすすんでいるということになるのでしょう。

 とはいっても、21世紀になって、同じ21世紀のそれも2年後ということになると、予測は現実的なものになります。2007年というと、数字の響きとしては、遠い未来のようでもあるのですが、実際には、ほとんど明日の現実。それなのに意外なほど対処がすすんでいない問題が、いくつかあります。具体的には、2007年に

  1. 第一次ベビーブーム世代が、60歳の定年を迎え始めること
  2. 大学の入学定員が、現役の進学希望者数を上回ること
  3. 外国企業との三角合併が解禁されること
の三点です。こうやって書いているうちにも、四番目、五番目の問題が出てくるのかもしれませんが、その時は連載の回数を増やすことにして、まずは最初の定年問題です。

 よく知られているように、日本の人口構成には、2つの極端な山があります。ベビーブームを通称されていますが、第一次が1947〜49年で、年間250万あるいはそれ以上の子供が生まれました。今の倍以上です。第二次は1970年からの数年で、こちらはちょっと山が低く、出生数は毎年200万人程度、要するに、第一次ベビーブームに生まれた人が結婚して、子供が生まれて第二次ベビーブームになりました。そう考えると、20世紀の終わりに第三次ベビーブームがあってもよかったように思うのですが、なかった。日本人の結婚や出産が変わってしまったということです。またこの結果として、2007年から、日本の人口はついに減り始めることになります。実は、男性はもう減り始めている。人口減少社会が現実になるのです。

 話を戻すと、第一次ベビーブーム世代が定年を迎えることには、大きく2つの問題があります。第一の問題は、労働力人口が減ってしまうのではないかという点です。そしてこれは更に、「マクロ的な労働力減少」と「ミクロ的減少」の問題に分けて考える必要があります。

 マクロの方は、実は少くとも当面は、あまり心配がないかもしれません。というのは、沢山の人が定年退職しても、労働需給がタイトであれば、退職した人のうちかなりの割合が、別の仕事につけるだろうと思われるからです。もちろん、需給ミスマッチの問題は、この年代になると大きいでしょうし、賃金水準も下がる場合が多いでしょう。とはいえ、仕事をしたいと思えばできるような雇用環境であることも事実です。

 深刻なのはミクロの、個々の企業の問題です。定年でやめる人がいる分、補充しなければならないのですが、この需給環境では、相当難しい。人手不足が一気に顕在化するものと思われるのです。



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