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第13回 人材のバリューとプライス−その5
2005年7月
武藤泰明

 社員の能力を測定し、戦力として配置していくことが課題であるとして、では、能力をどのように把握していけばよいのでしょうか。

 方法は2つありそうです。その第一は、資格制度を、保有能力を把握・表現する手段としてきちんと位置付けなおすというものです。

 とはいえこの方法では、すでに指摘したように、社員の能力が向上すると、個人の成果や会社の業績とは関係なく、人件費が上昇していくことが懸念されます。そしてもしそうなってしまうなら、資格制度を再構築しても、運用はできないということになるでしょう。

 このような問題を解決する手段としては、年棒ないし月例給全体の中に占める資格給のウェイトを小さくするというのがあります。すなわち、成果給(ないし賞与)、あるいは職務給の割合を高くしておくことによって、保有能力(=資格)が年棒に反映される度合を低下させることができるのです。

 ただし、資格給の割合を低くすると、能力向上意欲が低下するおそれがあります。要は程度問題なのですが、現実的な解決策の一つとしては、一定の資格を、職務付与の必要条件にするというものがあります。「資格が7級以上でなければ部長になれない」というようなルールです。

 2つ目の方法は、社員の能力を、社外から提供されるツールや基準で測定するというものです。会社の中で資格制度をつくったとしても、資格に見合う能力要件を明確に定義することは、おそらく困難です。この点は、資格制度の、いわば「永遠の課題」なのですが、外部に然るべき基準があれば、問題を解決することができるでしょう。

 では、そんなものがあるのかというと、答えはYES & NOです。たとえば厚生労働省は、さまざまな職務について、能力基準を作成しています。経済産業省も、ITにかかわる職種について、「ITスキルスタンダード」というガイドラインを示しています。これらは公開されているので、企業は、自社で職務能力基準をつくるかわりに、無料で利用することができるのです。これがYESの部分です。

 NOのほうは、今のところ、すべての職種について、このような「公開基準」がある訳ではないという点です。適用できる職種は限られています。ですから、たとえば、「広報のスタッフとITのスペシャリストの能力を測定して、横並びで評価する」というようなことはできません。

 しかし、考えてみると、このような「横並び評価」は、本当に必要なのでしょうか。企業が知りたいのが、自社の戦力なのだとすると、広報にせよITにせよ、社員の能力がそれぞれ別個に専門性の観点から把握できていればよいということになるはずです。一方、人事制度の観点からは、広報とITの担当者の資格と賃金を、横並びで比較できるようにしておくことが不可欠です。目的によって、必要なものが違うのだということです。(続く)



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