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第12回 人材のバリューとプライス−その4
2005年6月
武藤泰明

 職能資格制度における等級のブロードバンド化は、最近の人事制度改革の流行の一つですが、個人の能力評価について、大きな問題を生み出しています。それは、「等級の数が少な過ぎて、職務(等級)に要求される能力を表現できなくなる」という点です。

 極端な例のほうがわかりやすいので、資格等級が4つしかない制度をイメージしてみましょう。この制度の場合、18歳(高卒担当)から60歳までの42年間を、4つの等級に区分することになります。これでは

  • 各等級の能力要件を記述できない。 
  • なかなか等級が上がらないので、「はげみ」にならない。
  • 昇格を目標として設定しにくい。
といった問題が出てくることになります。とくに問題なのは、等級が能力を表現しなくなるという点です。

 ここまで、ブロードバンド化を含め、職能資格制度が直面している危機について解説してきましたが、共通する問題は、この「等級が能力を表現するものではなくなる」という点なのです。

 なぜこの点が問題なのか。その理由は、「社員の能力とは、企業の戦力」だからなのです。アナロジーを使えば、

  • 資格制度を年功的に運用することは、いろいろな性能の戦闘機を、製造年月日順に配備するのと同じです。
  • 保有能力の高い人材の昇格をストップするのは、戦闘機をヘリコプターのように使うことを意味しています。
  • ブロードバンド化は、短銃とライフルを区別せずに支給するようなものだといえるでしょう。

 戦力が把握できないと何が起きるか。答えは簡単で「まともに戦えない」ということです。

 もちろん、企業が行っているのは戦争ではないので、こんな状態で活動していても、飛行機が墜落するわけでもなく、大量の犠牲者がでるわけでもなく、それなりにバタバタと、あたふたと毎日が過ぎていきます。利益も出るかもしれません。しかしそのような状態は、人材を戦略として認識し、その能力を的確に測定・把握し、最適な育成と活用を考えた企業の成果と比べると、大きく見劣りのするものになっているはずなのです。

 個人の能力を把握しなければならないのは、賃金を支払わなければならないからではありません。最大限に能力を活用することが企業にとって合理的なのであり、そのために能力の把握が必要なのです。職能資格制度は、能力と賃金を連動させるという、ある意味では正しいメカニズムを持っていた為に、厳しい経営環境の下で、能力把握ツールとしての有効性を失うことになりました。したがって、「戦力としての社員の能力を把握する仕組みを再構築すること」が、現在の企業にとって、きわめて重要な課題になっているのです。(続く)



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