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第11回 人材のバリューとプライス−その3
2005年5月 
武藤泰明

 職能資格制度とは、個人の能力を賃金に結びつけるためのメカニズムだということができます。しかし、バブル崩壊後の厳しい経営環境の中で、企業は、このメカニズムを運用することができなくなりました。なぜなら、個人の能力が向上し、一つ上の資格に昇格すると、会社は個人に対して、今までより高い賃金を支払わなければならないのですが、その原資がないのです。

 結果として採られたのは、昇格条件を厳しくするという施策です。好況期なら昇格できた人が、昇格することが難しくなりました。

 昇格を厳しくする具体的な方法として典型的なのは、

  • 過去数年の業績をポイント化し、累積ポイントが基準を超えている事を昇格要件とする。
  • 昇格人数枠を予め定めておき、昇格候補者を順位づけして「足切り」を行う。
といったものです。

 人事制度上の理念としては、「保有能力から発揮能力へ」という点が強調されました。コンピテンシーという概念も、同じ趣旨のものだということができるでしょう。

 発揮能力やコンピテンシーという考えは、企業の方針を示すものとして、別に間違っている訳ではありません。問題は、これらの理念を実現する手段として、職能資格上の昇格がコントロールされたという点にあります。資格等級は本来、個人の保有能力を表現しています。しかし、昇格に発揮能力(要は成果)が加味されたことにより、資格と保有能力との関係は、あいまいなものになりました。資格から、個人の能力を判断することができなくなってしまったのです。

 職能資格制度の三番目の危機は、資格の幅を拡大することによってもたらされました。いわゆるブロードバンド化です。

 ブロードバンド化とは、たとえばこれまでの4級と5級を一まとめにして新たな等級にするというものです。これまで10等級で構成されていた資格を5等級に削減し、一つの等級に属する能力範囲を大きくします。

 ブロードバンド化の目的には、前向きなものと後ろ向きのものとがあります。前向きな目的は「有名な人材の昇進を促進する」ことです。これに対して、後ろ向きの目的は「同一等級内で号俸を下げることにより、実質的な降格を可能にする」というものです。

 どの会社の資格等級制度にも、降格のルールがあります。しかし、いかにも厳しいルールなので、実際にはほとんど運用されていません。資格等級をブロードバンド化し、毎年の人事考課で査定し、これに号俸が連動するようにしておけば、個人の等級は変えずに、降格と同じような考課と人件費の削減が実現できることになるのです。(続く)



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