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第10回 人材のバリューとプライス−その2
2005年4月
武藤泰明

 職能資格制度が、崩壊の危機を迎えているというのが今回のテーマです。職能資格制度は、人材の能力を等級で表現します。「〜ができれば3級」といったものです。1つの等級の中は号俸に細分化されており、あてはまる等級と号俸によって基本給が決まります。構造そのものは、よくできた制度だと言ってよいでしょう。

 ところが、資格等級が個人の能力、あるいは価値を正確に表していると思っている人は、実は、ほとんどいません。なぜそうなってしまったのか。

 理由の第一は、ポスト不足対策として、職能資格制度を導入した企業が多かったという点です。その意味では、危機は、はじめからあったということもできるでしょう。

 どういうことかというと、企業成長が減速して、部長や課長になれる人が、以前より少なくなりました。管理職にならなければ、賃金が上がらないというのではモラールが下がるので、管理職の賃金にかわるものとして、職能資格に基づく賃金を支払うようになったんですね。言い換えるなら、管理職並みの賃金を支払うための理由として、職能資格制度を設けたということです。

 こういう企業の職能資格表は、かなり「いいかげん」なものになっています。真面目に能力を測定し、評価しようという気がないなら、厳密な職能資格表をつくっても意味がないからです。

 このように、職能資格制度は、導入当初から形骸化していたのですが、一定の条件の下では、それでもまあよかったんですね。その「一定の条件」とは、個々の人材をちゃんと把握しようという、経営の意思があることです。

 職能資格制度の前にあったのは年功序列制です。名前の響きからは、いかにも同期入社は同じ時期に課長や部長になるような印象を受けますが、実際には、そう甘いものではありませんでした。年功序列制の下でも、課長代理どまりの人はいましたし、同じ課長や部長でも、ポストによって重い軽いがありました。誰を昇進させ、どのポストに就けるかということについては、年功序列制の下でも、真剣な検討がなされていたということです。職能資格制度のような形式基準がなかった分だけ、会社は真剣だったかもしれません。

 その後、職能資格制度はいろいろな企業で定着し、運用されるようになりましたが、バブル崩壊後の厳しい経営環境の中で、新たな矛盾を生じるようになりました。それは「能力を適正に評価しようとすると、人件費が上がってしまう」という問題です(続く)。



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