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第7回 アーキテクチャーとモジュール−(第1回)
2005年1月
武藤泰明

 今回は、最近の経営論の成果の中で、今後の人材ビジネスに大きな影響を与えそうなものを紹介しましょう。それは、「モジュール」というコンセプトです。

 モジュールについて議論するためには、準備として、「アーキテクチャー」という概念の理解が必要です。アーキテクチャーは、日本語でいえば「設計思想」です。もともとは情報システムの用語ですが、経営論でアーキテクチャーという場合には、ビジネスプロセスや組織の編成ルールを指します。

 アーキテクチャーは、「モジュール型」と「非モジュール型(統合型)」とに大別されます。そしてもモジュールとは、予め詳細に定義された、自己完結的な組織や活動を意味しています。たとえば、営業部門から回ってきた発注伝票に従って製品をつくり、出荷している工場は典型的なモジュールです。

 しかし、この工場が稼働率を上げるために、生産ロットを増やして在庫を持とうとすると話は違ってきます。製品在庫が売れないと困るので、営業部門との間で販売見込みの調整が必要になります。また生産に必要な原材料や部品を調達するにはコストがかかるので、経理部を納得させる必要も生じるでしょう。このような活動は、非モジュール的なものです。

 これが更に進むと、生産と在庫の最適化が、SCM(サプライチェーン・マネジメント)によって実現されることになります。この場合、非モジュール的だと思われていた生産・在庫管理は、予めルールの規定されたモジュール的なものになり、効率化が実現されます。

 そして、このような「非モジュールのモジュール化」を実現した企業が1社だけであれば、その企業は優位性を獲得することができます。しかし、このモジュール化は、遅かれ早かれ真似されるので、優位性が消滅します。

 以上から結論づけられるのは、「企業はモジュール化を絶え間なく進めることによってコスト効率と収益を向上させていくことができる」ということです。

 一方、製品にもモジュールという概念を適用することができます。とくにモジュール化がすすんでいるのはパソコン産業です。パソコンの部品やOS(ウインドウズなど)はモジュール化されているだけではなく企業横断的に規格化されているので、パソコンにちょっと詳しい人なら、パーツやソフトを別々に買ってきて自分で組み立てることも難しくありません。ウインドウズのOSやインテルのマイクロプロセッサなどのモジュールには優位性がありますが、最終製品のメーカーには優位性はないので、利益があまり上がらないということになるのです。換言すれば、事業そのものの利益は、その事業が非モジュール的でなければ実現しにくいのです。

 すなわち、企業の収益は

  • ビジネスプロセスをモジュール化すること
  • 事業そのものは非モジュール化すること
という、一見矛盾する課題を同時に実現することによって達成されるのだと言えるでしょう。



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