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第4回 労働需給の行方(その2)
2004年9月
武藤泰明

 少子化がすすむ日本にとって、労働力の減少による経済の停滞を救う切り札は、生産性の上昇です。これがどのようにして実現できるのかというのが、今回のテーマです。

 生産性向上の手段として、最も有力なのは技術革新です。たとえばロボットの導入により、製造業は少ない人数で大量の製品をつくることができるようになります。労働者一人あたりの生産額は、増加するでしょう。

 間接部門、ホワイトカラー部門でも、技術革新によって、生産性の向上が実現されています。いわゆるIT革命です。

 2番目の手段は「仕組み」の変革です。いわゆるカンバン方式、あるいはスーパーやコンビニのセルフサービスは、必ずしも技術進歩を前提にしていませんが、生産性の飛躍的な上昇に貢献しているということができるでしょう。

 そして3番目の手段が、人間の能力の向上です。そしてこれらが実現されることによって、労働力人口の増加率が、経済成長率を上回るようになるのです。

 さて、ここで留意しておかなければならないのが、いわゆる「空洞化」問題です。日本企業は、なぜ中国やタイに工場を移すのか。理由はコストであり、とくに日本と他の国とで大きくコストが違うのが人件費です。

 皮肉なもので、技術革新によって生産性が向上すると、雇用者である日本人の所得が増えるはずなのですが、もし実際に所得=賃金水準が上昇するなら、経営者は、ますます工場を海外に移転させたいと思うようになるでしょう。

 似たような問題は、「仕組みによる生産性上昇」でも起きることが予想できます。スーパーマーケットのセルフサービス方式は、おそらくどの国でも導入可能です。あるいは、米国企業は日本の生産方式を学び、これに「リーン生産システム」という名前をつけています。

 ここまでの論旨をまとめれば、つぎのようになります。

  1. 生産性向上の鍵は、「技術革新」「仕組み革新」「労働者の能力向上」の3つである。
  2. そしてこれらは、この順に、外部から真似されやすい。
  3. したがっておそらく、技術革新と仕組み革新だけでは、日本の成長は実現できない。

 結論はひとつです。日本が成長を維持していくための最大の鍵は、個人の能力向上なのです。技術革新や仕組み革新が不要だというのではありません。それだけでは、不足だということなのです。次回は、この「労働者の能力向上」の問題を深堀りしてみましょう。



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