企業は人手不足、日本全体は人余り
マクロ経済は、年初ほどの勢いはないものの、引続き成長を実現しています。日銀が公表している雇用判断DIを見ても、企業の人材余剰感は、ほぼ解消したということができるでしょう。
一方、完全失業率は4%台半ばなので、労働力は、経済全体としては、まだ余っています。これらのことに基づくなら、「企業は人手不足だが、日本全体としては、人手が余っている」ということになるでしょう。換言すれば、企業の人材調達意欲が今以上に旺盛になっても、これに応えるだけの「人手」が、しばらくはあるのだということです。
ギャップはいつまで続くのか
では、この「しばらく」というのは、どの程度の期間なのか。これをイメージするために、簡単な計算をしてみることにします。
まず、日本のGDPは、およそ500兆円です。経済が1%成長すると、500兆円の1%ですから、約5兆円の付加価値がふえることになります。個人の平均年収が仮に700万円だとすると、5兆円÷700万円で、およそ70万人になります。つまり、1%の経済成長は、70万人分の雇用を生みだすことになるのです。
一方、失業率1%も、およそ70万人です。ということは、1%の経済成長は、70万人の雇用を生み、失業率を1%減らすことになります。現在の失業率は4%台の半ばですが、どんなに景気がよくても、ゼロにはなりません。現在より失業率が2%改善されると、ほぼ完全雇用状態になります。ということは、経済が今より、2%成長すると、そこで日本全体の労働力の余剰は解消され、人手不足の時代が到来することになる−この計算は、実に大雑把なものなのですが、要は、人手不足の時代が、またやってきそうだということです。
少子化はマイナス成長をもたらす?
さて、この論理が正しいとするなら、中長期的にはかなり大変なことが起きます。少子化の結果、就労人口が減少するからです。つまり、経済の潜在成長力が高いにもかかわらず、働き手がいないことによって、成長できなくなってしまうのだということです。というより、経済成長の源泉が労働力だけだとすると、就労人口が減るなら、経済はマイナス成長ということに、なるはずなのです。小松左京ではありませんが、「日本沈没」です。
高齢化というのは、まだ先の話だと思っている人が多いように思います。たしかに、今より将来のほうが高齢化率が高くなりますが、実は、日本の生産年齢(15〜64歳)人口は、1995年をピークとして、下がり続けています。その意味では、日本経済は、「マイナス成長が当たり前」の状態だといえるでしょう。
しかし、おそらくそうはなりませんし、そうなってほしくもない。そしてそのために登場するのが、「生産性」という切り札なのです。