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第2回 サービス産業化と派遣雇用:その2、サービス産業における派遣の事業機会
2004年7月
武藤泰明

 ひと口にサービス業といっても、その中身はいろいろである。多様性は、製造業よりはるかに高い。そこでサービス業を大胆に二分するなら、「巨大インフラ型」と「中小生業型」ということになるだろう。これは、産業組織(その市場に参入している企業の構成)による類型化である。

 巨大インフラ型には、電力、通信、交通、ガス水道などが含まれる。政府(中央、地方)も、これに含めてよいだろう。莫大な資金が必要で、民間、とくに中小企業の参入がなじまない分野である。

 これらの産業は公益的であり、国営ないしこれに準じていたものも多い。そしてそれ故に雇用者は身分、処遇面において手厚く保護されてきた。というより、ある面において保護され過ぎてきたので、人材派遣業にとっては、潜在的に巨大な市場である。事業機会が顕在化するパス(経路)は2つある。その第一は、公的企業体の民営化である。もちろん、民営化されても労働組合が強い場合が多いので、人材派遣の浸透には、一定の時間を要するだろう。とはいえ、民営化に伴い、組織はコストとパフォーマンスに敏感になる。そこに機会が生まれるということである。

 第二のパスは、公的主体のサービス機能が外部化されるか、あるいは本体で実施されながら、派遣が導入されるというものである。たとえば、老人介護サービスは、民間の事業者の参入を前提としなければ、おそらく実現することができない。あるいは公立学校の給食サービスを公務員が行うというのも、仕組みとしては維持しにくいものになってきている。

 このような変化は、規制緩和の一種である。その意味では派遣業にとっては、すでに経験したことが今後も起きる。時期を特定することはできないものの、大きな変化が確実に起きるといえるだろう。

 生業型のサービス業で起きている変化は、ひと言で言えば近代化である。すなわち、大規模な事業者が参入し、シェアを高める。統計的には、「事業者数の減少」「事業所数の減少」「1社(及び1事業所)あたりの平均従業員数の増加」「従業員1人あたり売上高の上昇」が同時に起きる。いわゆる「大手」の参入を近代化と呼ぶことには、あまり意味がない。重要なのは、生産性の向上が同時に実現されているというところにある。古くは小売業、最近では書店と外食産業が、このような近代化を実現している。

 多数の人員を使う企業であれば、マニュアルを整備し、自前で教育を行うことも可能であろう。事実、チェーン化された小売業、外食産業やサービス業の多くは、米国から原型が輸入されており、ビジネスと同時にマニュアルも持ち込まれている。

 したがって、すでに大手になった企業だけで成り立っている業界であれば、人材派遣業の機会は、おそらく小さいだろう。重要なのは、新規参入者である。すぐれたビジネスモデルを持ち、成長を意図する企業に不足している資源は、要員と教育ノウハウだからだ。このような事業者に対応することにより、人材派遣業は「正社員代替ビジネス」に「成長支援ビジネス」という、あらたなビジネスモデルをつけ加えることになるはずである。



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