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人材戦略 未来の選択

第1回 サービス産業化と派遣雇用:その1、非正社員化のトレンド
2004年6月
武藤泰明

規制緩和のつぎに来るもの

 人材派遣は、この18年余り、規制緩和によって伸びてきた産業である。もちろん、規制緩和だけで2兆円以上の規模の市場が生まれるはずはない。このサイトの主催者をはじめとする事業者の熱意が、成長を現実のものにした。とはいえ、やはりインフラは、規制緩和であった。今年3月の改正法で解禁された製造派遣も、同じ論理の上にある。

 自由化すべき要素は、おそらく、まだ多い。とは言え業界の成長(これはユーザーにとっての「価値」やメリットの増加と同義である)を、規制緩和に依存することは、そろそろ難しくなり始めている。自由な市場の中で、どのような成長を実現するのかという点が、産業、及び事業者にとって、重要なテーマになろうとしている。

サービス化と雇用構造

 日本を含む先進国において、産業構造変化の基本的な潮流は、サービス化である。三次産業化と言っても良い。経済が成長し、所得が上昇するのは好ましいことだが、反面、国際競争のある産業では、人件費を始めとするコストの低い国に、ビジネスが移転していく。典型は製造業であり、現象はいわゆる空洞化である。

もちろん、あらゆる製造業が日本からなくなってしまう訳ではない。高付加価値化や省力化によって、製造コストの中の労務比率を下げた企業、あるいは日本国内を需要地とし、機動的なサプライチェーンを優位性の源泉とするような企業は、存続するだろう。ミクロ的には、さまざまな事態があり得る。しかし産業全体として進行するのは、やはりサービス化なのである。

では、サービス化は雇用構造にどのような影響をもたらすのか。2003年の労働経済白書に、産業別の「非正社員比率」、およびこれが1996年から2001年にかけてどう変化したかについての分析が掲載されている。非正社員なので派遣社員以外の類型も多く含まれているが、産業の特徴を掴むことは可能である。

図では、三次産業が5つの業種に分類されている。この中で「卸売・小売業、飲食店」の非正社員比率はとくに高く、これに狭義のサービス業が続いている。運輸・通信業の非正社員比率は、1996年には製造業より低かったが、2001年にはほぼ同じ割合になっている。「金融・保険業、不動産業」と「電気・ガス・熱供給・水道業」の非正社員比率は、製造業よりむしろ低い。

直感的には、産業のサービス化がすすむと、これにつれて非正社員比率が上昇するように思えるのだが、実際には、製造業より、非正社員比率の低い業種もある。何とも言えないということである。一方で、産業全体としては、非正社員比率は上昇している。こちらは、直感に適合している。労働経済白書では、回帰式を用いて分析を試みている。結論としては、産業全体としての非正社員比率の伸びは「産業、業種を問わない、非正社員化のトレンド」と「三次産業化による非正社員比率の上昇」の両方によるものだが、どちらの影響が大きかったのかと言うと、少なくとも2001年までは、前者の「産業、業種を問わない、非正社員化のトレンド」の方であり、三次産業化がこれを強化してきたと言う事になるのである。ではこれからはどうか…というのが次回のテーマである。

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