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第32回:在宅勤務
武藤泰明

2度目のブーム

 しばらくあまり聞かれなかった在宅勤務が、最近また話題になってきました。導入しようとしているのは大企業が多いようです。

 在宅勤務がふたたび脚光を浴びるようになった第一の理由は、セキュリティ対策が充実してきたことです。逆に言えば、在宅勤務のトレンドが消えかかっていたのは、セキュリティに問題があったからで、パソコンやUSB内部のデータの保護、インターネットで送信されるメッセージや添付ファイルの保護がこれまでは十分ではなかった。この問題が克服されて、在宅勤務が現実的になりました。

もはや福利厚生ではない

 第二の理由は、在宅勤務制度の適用対象者が拡大する可能性が大きいためです。 「過去の在宅勤務ブーム」では、在宅勤務する社員の典型的なイメージは、子育て中の女性でした。またしたがって、在宅勤務とは、福利厚生の一環として議論される性格のものだったということができるでしょう。

 これに対して今回話題になっている在宅勤務は、福利厚生だけではありません。もちろん、子育てや介護と就労を両立させる手段として役に立つことは間違いありません。あるいは、65歳までの雇用延長に伴い、高年齢の社員が仕事と地域活動とを両立させるために在宅勤務を選択することも可能だと思います。その意味では、新しい在宅勤務は、福利厚生制度としてもこれまで以上に普及していく可能性を持っていますが、過去のブームとの最大の違いは、福利厚生とは関係なく、一般社員の勤務形態のひとつとして選択されるものになりそうだという点なのです。

 インターネットの普及によって、ホワイトカラーの仕事は、皆で集まらなくてもできるものが増えています。この結果として労働時間管理が時代に合わなくなり、裁量労働制が導入され、いわゆるホワイトカラー・エクゼンプションが議論されてきました。この延長線上に、仕事の時間と場所を特定しない就労形態として在宅勤務があると考えることができるのだと思います。

勤務形態の多様化は選択の自由をもたらすか

 このように考えると、在宅勤務は、就労形態の中でもっとも自由度の高い、究極のワークスタイルのようにも思えるのですが、制度として確立・定着していくためには、克服しなければならない問題もはらんでいます。

 第一は社員の側の問題で、在宅勤務が向かない人もいるという点です。自宅では集中できない人、一人で作業するとストレスがたまる人・・いろいろなタイプの人がいます。第二は会社の側の問題で、制度をつくると、すべての社員をどれか一つの制度にあてはめようとしてしまうことが多いように思います。せっかく勤務形態の多様化を実現しても、これでは多様化が選択の自由につながりません。多様性と選択が両立するような制度設計が、在宅勤務普及の鍵になるのではないかと思います。

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