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第31回:スタグフレーション
武藤泰明

インフレーションとの違い

 スタグフレーションは経済学の用語で「景気後退下の物価上昇」を指します。物価上昇というとインフレのことだと思っている人が多いのですが、インフレの前提は需要が多いこと。需要に対して供給が少なければ、要は取り合いになって価格が上がる。これがインフレです。

 日本経済は現在、需要は決して旺盛ではありません。それにもかかわらず物価が上昇しているので、報道ではインフレと表現されているのも多く見かけますが、厳密にはスタグフレーションであり、現象としてはかなり性格の違うものなのです。

なぜ起きるのか

 景気が後退しているのに物価が上昇しているのは、輸入価格が上がっているからです。原油、金属、食料などの価格が上がると、国内の需要に関係なく製品価格が上昇します。国内の購買力が変わらないとすると、同じ価格で買えるものが減るので、消費が後退します。逆に企業は原材料価格の上昇を製品価格に転嫁しにくいとすると、企業の収益が停滞し、これも景気後退要因となるでしょう。

雇用と賃金への影響

 働く人に着目するなら、物価が上昇すれば、実質所得が低下することになります。これがインフレなら、企業の売上も増加しているので賃金上昇で解決できるのですが、賃金を支払う企業のほうも原材料価格が上昇し売価はそれほど上がらないので、賃上げの原資を確保することができません。賃金は上がるどころか抑制される・・場合によっては賃下げもあり得る状態になっています。そうなると消費はますます縮小することになるでしょう。

 賃金水準を維持ないし向上させ、同時に企業が収益を確保する方法は、人員を削減することです。これによって企業は回復しますが、マクロ的には失業率が上昇し、労働者全体の所得が減少するので景気は回復しにくくなります。

解決策はあるか

 こう書くと、スタグフレーションには、いかにも出口がなさそうなのですが、たとえば日本経済と企業は石油危機の中で成長を実現してきました。コストの上昇は、企業の効率化や生産性の向上を促進するとともに、産業間、企業間の労働力の再配置の要因にもなります。当たり前のことですが、企業の成長率は、その企業の労働者の増加率より高い・・そうならなければ企業は成立しません。その意味では、スタグフレーションは、企業のイノベーションの契機になり得るものだということができるでしょう。

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