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第27回:ローテーション
武藤泰明

ローテーションをする理由

 ローテーション、つまり「担当の変更」をすることには、いくつかの理由があります。すぐ思いつくのは、「いろいろな仕事をすることによって、視野を広げる」というものでしょう。でも、理由はこれだけではありません。たとえば金融機関では、不正防止が重要な目的の一つです。金融機関に限らず、権限の大きいポストにずっと同じ人をあてておくのは危険だといえるでしょう。キャリア官僚が頻繁に異動するのも、権限が強大だからです。監督対象や発注先の企業との癒着を回避するために異動を行います。

要求能力と保有能力の差が大きいと仕事がつまらなくなる

 ローテーションのもう一つの重要な理由は、「仕事に飽きないこと」あるいは「仕事がつまらなくならないようにすること」です。

 職務が求める能力を「要求能力」、ある人がその職務について持っている能力を「保有能力」と呼ぶことにしましょう。保有能力は要求能力以上でなければ仕事が遂行できません。しかし、保有能力に比べて要求能力が低すぎると、仕事がつまらなくなります。同じ仕事をずっと担当していると、保有能力が上がるので、要求能力との差が大きくなり、仕事がつまらなくなくなっていくんです。

 そうなった時に異動すると、要求能力の内容が変わるので、今までとは異なる保有能力が必要になります。つまり、保有能力が低下し、要求能力との差が小さくなる。そうなると、頑張らねばと考え、努力と意欲を取り戻すことができます。

 いろいろな企業を見ていると、「技術屋」は「事務屋」よりローテーションが少ないように思います。おそらくこの理由は、技術部門では技術革新によって頻繁に要求能力が変更されるので、結果として保有能力が陳腐化し、両者の差が広がりにくいからです。もちろん、事務系の仕事でも、ERPの導入、会計基準の変更など、大きな変化は少なくありません。このような場合は技術部門と同じで、2つの能力の格差は広がらないと言えるでしょう。つまり、職務にイノベーションがあれば、ローテーションの必要は、あまりないんです。

ローテーションは会社の余裕の証し

 ローテーションは、社員の保有能力を意図的に下げる行為です。したがって、少なくとも短期的には、その社員と、会社全体としての生産性は低下することになります。そうであるにもかかわらずローテーションを行うのは、上に述べたようないくつかの理由があるからなのですが、人材や収益に余裕のない企業は、ローテーションという、生産性を下げる行為を選択することができにくいと言えるでしょう。その意味では、ローテーションとは、会社の余裕の証しなのです。

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