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第21回:複線型人事制度・・一本化から複々線化への転換
武藤泰明

一本化のトレンドの限界

 日本企業の戦前の人事制度は、学歴、職種(ホワイトカラーかブルーカラーか等)、性別などにより区分されていました。第二次大戦後は、平等化の流れの中で、工員とホワイトカラー、あるいは学歴による制度上の格差などが解消され、また近年では男女雇用機会均等法による性差と職種・昇進機会等の関係の解消(とはいえ総合職と一般職はある)など、一本化ないし統合を基本的なトレンドとしてきたということができるでしょう。総合職の賃金は男女で同じです。また高卒4年目の社員の給料は、大卒1年目の社員と同じという企業が多くなっています。

 しかし現在は、半世紀かけて推進してきた一本化を見直し、むしろ複線化をすすめようとしている企業が増えています。具体的には、遠隔地への転勤のない地域限定社員コース、管理職にならない専門職コース等が一般的にみられます。また60歳を超えた社員の雇用継続については、さらに多様なコース設定が試みられているようです。

 このような「再複線化」の背景にあるのは、第一に、形式的な平等より、自分にとって好ましい働き方に適した制度を求める社員が増えてきたという点です。一本化された統一的な制度は、待遇と昇進機会の平等を実現します。しかし、現在の雇用者の中には、待遇と昇進機会の平等より、「単身赴任せずに家族と一緒に暮らしたい」「親の面倒を見るために転勤をしたくない」「子供の世話をしてもらえる親元を離れたくない」「専門職として好きな仕事をしていたい」「60歳を過ぎたら週の半分はボランティア団体のリーダーとして活動したい」など、自分の希望を優先したいと考える人が多くなってきているのです。換言すれば、頑張れば賃金も地位も上がるということでは、必ずしもモチベーションが上がらないということです。単線型人事制度は、「会社が提供する機会の平等」を目指しました。これに対して複線型の制度は「社員の希望が叶えられる機会の平等」を目的としているということもできるでしょう。

複線型は「勝ち組」を増やす

 背景の第二は、複線型制度のほうが、企業にとってコストが低く、かつ管理しやすいという点です。コストが低いのは、複線のうち「支線」を選択する社員の賃金水準は「本線」より低いのが一般的だからです。また統一的な制度は一握りの「勝ち組」と多数の「負け組」を生みますが、複線型なら「勝ち組」が複線のそれぞれにおいて生まれることになります。換言すれば、複線型では単線型より勝ち組になれる社員が増加するので、動機付けが容易になるというメリットがあるのです。もちろん「勝ち組」の賃金は上昇しますが、これは当該コースの平均賃金が低いことによって吸収することが可能です。このような理由から、最近では職種のコース数を多様化し、複々線化をすすめる企業も見られるようになっています。

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