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第17回:ストック・オプション
武藤泰明

ストック・オプションの仕組みと目的

 ストック・オプションとは、企業が発行する新株予約権のうち、役員や従業員に対して付与されるものを指します。ストック・オプションには予め権利行使価格(1株いくらで自社株を買えるのか)が定められており、役員や従業員は、自社の株価が権利行使価格を上回った場合、この権利行使価格で株式を買い、時価で売却すれば差益を得ることができます。

 企業はなぜストック・オプションを付与するのか。第一の理由は、とくに役員や幹部社員に、株価を意識した行動を期待しているからです。株価が上昇すれば、彼らの収入も多くなります。ですから、ストック・オプションは、株価を高めたいという企業の意思と役員・従業員の行動を連動させるための手段の一つなのです。

 第二の理由は、キャッシュの節約です。とくにベンチャー企業では、優秀な社員を集めたいがお金がないということがままあります。このような場合、彼らにストック・オプションを付与し、事業が成功して株式を上場できれば、社員は大きな利益を得ることができるでしょう。その可能性が高ければ、賃金は低くても優秀な社員を集めることができます。

 すでに上場している大企業にとっても、ストック・オプションはキャッシュを節約する手段になります。なぜなら、株価が上昇してから従業員がストック・オプションで得た株式を市場で売却する場合、高価格で株を買うのは会社ではなく投資家だからです。もし企業が自社の業績に応じた報酬制度(賞与など)を採用している場合、業績がよければ会社が負担する人件費も増えることになります。これに対してストック・オプションであれば、役員や従業員の報酬は業績(株価)に連動するのに対して、会社の負担は増えません。うまくできた仕組みだということができるでしょう。

ストック・オプションの弊害

 ではいいことずくめかというとそうでもありません。問題も多い制度です。第一に、経営者が短期的な業績を重視するようになる、しすぎるという弊害が指摘されています。とくに米国ではこの問題が大きいと言われています。米国の上場企業では、業績を残せなかった経営者は解任されるリスクが高いので、そもそも短期業績指向になりがちなのですが、加えて、彼らの報酬の中で、ストック・オプションが高い割合を占めているという問題があります。株主、あるいは社外の人材で構成している取締役会からすれば、業績をあげるためにその経営者をスカウトしてきているので、経営者にインセンティブを与える手段が必要です。そして前述のように、低コストでインセンティブを与えられるのがストック・オプションなのです。

 第二の問題は、不祥事が隠ぺいされやすくなることです。結果として問題や被害が大きくなってから発覚することになります。

 不祥事は早期に対処することが企業の長期的な成長(あるいは存続)と消費者の利益にとって不可欠です。しかし不祥事の発覚・公表は株価を低下させるので、ストック・オプションを付与されている人は、会社や消費者の利益を犠牲にし、自分自身の経済的な利益のために問題の公表を避けようとしがちなのです。

 したがって、ストック・オプションを導入する企業は、このような問題を取り去るための手段・方法を、同時に持つ必要があるといえるでしょう。

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