フランスでは「社会的骨折」
昨年(2006年)の流行語大賞は「イナバウアー」と「品格」でした。ちょっと惜しかったのが「格差社会」。山田昌弘氏の「希望格差社会」は2004年11月刊。つまり2005年にも流行語だったので、言うなれば流行語のロングセラー。80万部売れた三浦 展氏の「下流社会」も2005年9月刊行でした。横並びならぬ「タテ並び社会」という語も生まれました。
格差社会については実にいろいろな本が出ていて賛否あり議論も多いのですが、日本人の所得格差が拡大したことと、7割が中流を自認するという意識の変化は、たしかに起きているといってよいでしょう。
とはいえ、この格差拡大は、ほかの国を見ていると格差「社会」とまではいえないもののように思えます。もともと日本には所得格差や格差意識があまりなかったので、変化が大きく見えるのかもしれません。
じゃあ、ほかの国はどうか。たとえばフランス。法政大学の長部重康氏によれば、格差社会に該当する言葉は fracture sociale。直訳すると「社会的骨折」。いかにも深刻で、事実深刻です。
ヨーロッパで格差というと、階級や民族に起因するものと思われがちですが、最近のフランスはそうでもありません。格差が大きいのは公共部門と民間。公共部門が恵まれています。とくに社会保障格差が大きいのですが、これを「構造改革」しようとすると公共部門の雇用者が既得権を守ろうとしてデモやストライキを行う。また20%に達している若年層の失業を減らそうという目的で初期採用契約(2年間の試用期間中の解雇を容認する)を中規模以上の企業にも適用しようとしたら暴動、そして大学のストライキが相次ぎ、結局実行できませんでした。格差があるだけでなく、格差を是正することが難しいのも、フランスの深刻な悩みの一つです。5月に決選投票が行われる大統領選挙の大きな争点の一つにもなっています。
日本の格差は経済成長で解消できる
これに対して日本では、格差が拡大しているとは言われるものの、失業率は低下してきており、学卒者の就職も好調です。人手不足が格差を解消しはじめているということができるでしょう。いわゆる構造改革が格差を拡大したという意見もあり、事実、格差を容認する政策が一部採用されてはきたのですが、一方では高年齢者雇用安定法など、格差拡大を抑制する施策も実現されています。
このような状況からわかるのは、日本の格差社会は、どうやら人口と経済の「関数」なのだということです。経済が成長し、民間企業が活力を維持すれば、雇用が増加し、賃金も下がらない。人手不足がさらに進むと、企業は生産性を上げようとする。そのために労働集約的な仕事は省力化し、人間にはスキルの向上を求め、結果として仕事が専門的で面白く、高付加価値のものになる。バラ色すぎて信じられないと感じる人もいるかもしれませんが、長い目で見れば必ずそうなるんだと思います。安心して仕事しましょう。