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第13回:採用コスト - 隠れた人件費
武藤泰明

賃金水準と総人件費の関係は?

 人手不足が続いています。この労働需給を前提とすると、賃金水準は上昇します。デフレ解消も見えてきたので、ベースアップも復活することになるでしょう。初任給を上げる企業も増えてきました。

 では人件費が急増するのかというと、実はそうでもないんですね。団塊の世代が60歳を迎え始めているので、平均賃金水準は当面低下する。結果として総人件費は意外に増えません。だから安心して賃金水準を引き上げることができる。とはいえ、大量退職のピークが過ぎ、人員が順調に増え続けるとすると、人件費の上昇が収益を圧迫し始める・・・という点を、経営者や人事部長は、そろそろ気にし始めているはずです。

人件費は足し算、採用コストは掛け算

 このような論理には、忘れられている重要なポイントが一つあります。それは採用コストです。人件費はなだらかな上昇局面をやがて迎えるのですが、採用コストのほうは、幾何級数的に上昇するという性格を有しています。なぜかというと、人手不足のために採用計画を達成できないからです。

 例で考えて見ましょう。これまで、毎年1000万円の直接経費をかけて20人を採用していた会社があるとします。一人当たりの採用コストは1000万円÷20人で50万円になります。これが、人手不足の結果として5人しか採用できなかったとすると、50万円が200万円に跳ね上がってしまうのです。

 では、どうしても20人採用する、必達だということになると、コストが上昇します。1000万円が2000万円になる。それで20人採用できればまだいいのですが、結果が10人だったとすると、一人当たりの採用コストは2000万円÷10人で200万円のままです。つまり、一人当たり賃金は上昇するといっても足し算の世界であるのに対し、一人当たり採用コストは掛け算の世界なので、人手不足に伴って急増してしまうのです。

採用コストは固定的、成果は流動的

 採用コストのもう一つの問題は、実際に採用活動を行ってみないと、何人採用できるかわからないという点です。つまり、コストは固定的で成果は流動的であるということになります。トランプのポーカーの掛け金がどんどん上がっていくのに、ちょっと似ているかもしれません。リスクがあるということです。それなら、成功報酬型のヘッドハンティング会社、人材紹介会社に依頼したほうが、見た目の単価は高くても、結局安上がりだということになるかもしれません。

 いずれにせよ間違いないのは、人件費だけでなく、募集コストも企業の総コストを左右する時代になっているのだという点です。とくに、人材の流動性の高い企業では、人件費に募集費を加えたコストを管理する必要があるといえるでしょう。

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