基準外人材というのは、専門用語、学術用語ではありません。私の造語です。意味は、「企業のこれまでの採用基準に当てはまらない人材」。具体的には、大学などを卒業してから一度も正社員、正規職員として就職したことがなく、フリーターなどの非正規雇用者として仕事をしてきた人たちを指します。
企業はこれまで、主に新卒定期採用によって若い社員を獲得してきました。通年採用が一般化してきていますが、4月以外に入社するのは業歴者・・・つまりどこかで社員をしてきた人がほとんどです。第二新卒というのも、職歴が短い「もと正社員」だといってよいでしょう。採用担当者の視野には、正規雇用者としての経験のない人は入っていなかったと思われます。
このような慣行が、労働需給の両面から変わらざるを得ない状況になってきています。まず需要については経済成長と企業業績の回復によって、人手不足が顕著になってきました。これに対して、供給面では若年層人口が減り続けています。そしてもっと大きな特徴はこれまで、具体的には2004年3月卒業までの数年にわたり、就職できなかった学生が極めて多かったという点です。学校基本調査によれば、大卒、短大卒に限っても毎年20万人が、新卒の時点で就職しませんでした。2005年3月は景気回復のおかげで少し減りましたがそれでも17万人です。つまり、5年間で約100万人の「高等教育卒業者」が卒業しても就職できておらず、おそらく現在でもそのほとんどが正規従業員になっていないと思われるのです。おそらくこれは世界的に見てもちょっと奇異、特殊な現象であり、国民経済的にも大きな損失だと言えるでしょう。
そして更なる問題は、当たり前といえば当たり前のことなのですが、このような人々が毎年1歳ずつ歳をとっていくということです。日本の就職バブルのピークは1991年なので、このような基準外人材、不本意なフリーターが大量に出始めたのは1992年からということになります。この年に大学を卒業し、フリーターになった人は、現在37歳。新卒と同列に扱うのはちょっと、という年代になっています。2000年3月卒業でも29歳です。
よく、格差社会問題は非正規雇用者問題であると言われますが、それは断面を議論しているのに過ぎません。重要なのは、非正規雇用者であることではなく、その状態が変わる可能性がないことなのです。
とはいえ、深刻な若年労働力の不足を背景として、企業の考え方も変わって来つつあります。日本経団連が実施した「2006年春季労使交渉・労使協議に関するトップ・マネジメントのアンケート調査結果(速報版、2006.8発表)」によれば、フリーターを正規従業員として採用するかどうかについての回答は「積極的に採用」1.6%、「卒業後一定期間以内であれば採用」8.1%、「経験・能力次第で採用」64.0%であり、「採用しない」は24.3%です。基準外人材が正社員になれるチャンスは、高くなっているのです。
もちろん、このような人々を雇用するためには、企業が有している制度を変える必要がでてきます。たとえば卒業年度=採用年度を起点とする賃金テーブルには、基準外人材をあてはめることができません。また年齢が高い人に対して導入研修などを実施しなければならないので、教育研修体系も変更が必要です。面倒といえば面倒なのですが、「戦力予備軍」を確保するためには不可欠の対応だと考えるべきでしょう。労働市場の実態に応じて、企業の制度も変わっていかなければならないということなのです。