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第7回:リベンジ型転職?
武藤泰明

 雇用の流動化が進んでいます。

 そう書くと、ほとんどの人は、「何を今さら」と感じるでしょう。しかし実際に、流動化の代表的な指標である転職率が上昇しています。またこれまで雇用の流動化が進むと言われた時期―たとえばバブル期、あるいは90年代後半の不況期―には、実は転職率はあまり上昇しませんでした。理由ですが、好況になると人材需要が強く、不況だと余剰人員対策で、どちらも流動化という議論になるのですが、実際には好況期は退職が少なく、不況期は採用が少ないので、転職率は景気に対して中立的な指標だったのです。

 その転職率が上昇しています。そしてその要因の一つとして指摘されているのが、この「リベンジ型転職」です。

 リベンジといっても、誰かに復讐するわけではありません。要は「不況期に希望する会社に就職できなかった人、希望する職種に就けなかった人が、好況になり、これらの会社や職種が採用を再拡大したことに伴い、自分が本来希望していた仕事に就くために転職する」ということです。またしたがって、このタイプの転職をするのは、企業が採用を絞っていた90年代後半から今世紀初頭に学校を卒業して就職した人であり、大卒であれば25歳から35歳くらいまでの年齢に分布しています。

 需要は、かなり強いと言えるでしょう。この世代の人材が不足している企業が多いからです。またこのタイプの転職をする人々には、仕事がうまく行っている、能力の高い人が含まれる点が大きな特徴です。ちゃんと仕事をし、成果を上げながら転職を強く指向しているという、今勤めている会社から見ると、ちょっと困った人たちなのです。

 したがって、リベンジ型転職をしたいという希望は、高い確率でかなえられることになります。換言すれば、転職される側の会社からすると、不況期に苦労して採用した優秀な人材が、容易に抜けてしまうということでもあります。このようなトレンドは、おそらく、押し戻すことができません。したがって、若手社員は、好況が続く限り、減少していくことになるのでしょう。大きな問題です。

 しかし世の中には、もっと大きな問題があります。リベンジ型転職をする年齢の人々の中には「不本意な就職」をした人も多いのですが「そもそも就職ができなかった」という人も、かなりの数に上るのです。文部科学省の統計によれば、大学・短大卒業者で、就職も進学もしなかった人は、2000年から2004年まで、毎年20万人以上いるのです。このような人たちは、正社員としての職歴がないので転職ができません。正社員で雇用されること自体が難しいのです。リベンジすべきなのは本来このような人たちなのだと思うのですが、彼らにはリベンジする自由もないんですね。そして毎年1歳ずつ歳をとり、結果として、就職は毎年難しくなっていきます。

 このような人々は、世界的にみれば、驚くほど高学歴の非正規就業者です。一言でいえば、実にもったいない。教育投資が職業能力に結びつかないことは、個人にとってだけでなく、社会にとっても大きな損失です。企業はバブル崩壊後の不況からようやく脱していますが、社会には、まだ問題が残っているということなのです。

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