日本銀行が四半期に一度、「全国企業短期経済観測調査」の結果の一部として公表している指標です。この調査は「短観」と通称されていますが、エコノミストで短観を知らない人はいないと言ってよいでしょう。
指標の作り方ですが、企業にアンケート調査を行い、雇用者数が「過剰」「適正」「不足」の中から回答を選択してもらいます。「過剰」という回答の割合(パーセンテージ)から「不足」の割合を引いたものが雇用人員判断DIになります。したがって、プラスであれば余剰感が強く、マイナスでは人手不足感があるということになります。またアンケートでは「現状」と「先行き」について調査をしており、とくに「先行き」については、労働力需給の先行指標として重視されています。
DI は Diffusion Index の略で、直訳すれば「分布指標」ということになるでしょう。要は上記の「過剰」「適正」「不足」の中のどちらに偏った分布になっているかを示すものだということです。
この指標の優れているところは
- 昭和40年代からずっと調査しているものであること
- 調査対象企業の業種・規模がまんべんなくカバーされていること
- 調査対象企業の回答率が極めて高い(100%近い)こと
です。雇用人員判断の「判断」とは要するに意識なので、時系列で調査が行われていることが、データの信頼性の裏づけとなります。また 2. 3. からは、この指標が日本全体の状況を把握するのに適していると言うことができるでしょう。因みにマンパワージャパン社の雇用予測は「大都市」の「大企業」を対象とする調査であるため、日銀の雇用人員判断DIよりさらに先行的な指標と位置づけられるものだと思います。
雇用人員判断DIを遡ると、バブル崩壊を受け、1993年第2四半期に「予測」と「実績」がともにプラスになりました。そしてその後この2つの指標がともにマイナスになったのは、2005年の第3四半期です。12年間の雇用余剰感が、景気回復によって、遂に終わったということができると思います。ただしマイナスになったとはいえ、2006年第二四半期の予測指標はマイナス8であり、著しい人手不足感ではありません。業種によっては、まだ余剰感があるようです。
因みにこの指標がもっとも低かったのは1991年の第1四半期でマイナス49でした。この調査のごく初期の1974年にマイナス28という例がありますが、それ以降は、バブル期の1988年まで、2桁のマイナスというのはありません。1980年代末からのバブル、そしてDIのマイナス49という値が特殊なのであり、これを除くと、マイナス8というのはかなり低い値だということができるでしょう。
今後ですが、雇用人員判断DIは、これまでより敏感に企業マインドを反映するものと思われます。この理由は、企業の人員がスリム化しているためです。社内に余剰労働力がないので、業績が上向きで人手が足りなければ外部に求めざるを得ません。逆に景気と業績の下降が予測される局面においては、企業は労働力の余剰を強く意識するようになっています。このため、雇用人員判断DIは、これまで以上に、景気の先行指標として有効であり重視されるようになるものと思われるのです。