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第20回:ドリームチーム
2008年6月
武藤泰明

バルセロナ五輪の超豪華メンバー

 オリンピックももうすぐなので、今回はドリームチーム。オリンピック&バスケットといえば、何はさておき、ドリームチームなのである。舞台は1992年のバルセロナオリンピック。

 この雑誌には若い読者も多いので、予備知識をまず整理しておこう。

<予備知識1>

1988年のソウルオリンピックで、米国代表チームは決勝でソビエト連邦に負けた。

<予備知識2>

当時はロシアではなく、社会主義のソビエト連邦。そのソビエトが、米国と覇権(バスケットボールではなく、軍事勢力について)を争っていたのである。いわゆる冷戦、東西対立。

<予備知識3>

当時のオリンピックには、プロ選手は出られなかった。米国代表も学生である。これに対して、社会主義国の代表選手は、国を挙げて育成している選手である。「ステート・アマ」と呼ばれたりしている。実質プロ。

<予備知識4>

ソウルオリンピック後、オリンピックにプロ選手も出られるように制度が変わった。

 ・・ということで、バルセロナからNBAの選手がオリンピックに出られるようになって、米国は最強のメンバーで金メダルを取った。この時のチームをドリームチームと呼んでいる。メンバーはマイケル・ジョーダンほか、とにかく超豪華。もちろん全勝、楽勝で、対戦相手は国を代表して競技に臨むというより、スーパースターにファンとして会いに来たようなものだったらしい。何しろ実力が違いすぎた。それに、1992年にはソビエトはすでに崩壊していて、冷戦もなくなっていたから、スポーツに国の対立意識が持ち込まれることもなかった。

2つの「ドリーム」

 ドリームチームは、2つの理由で人々の記憶に残っている。第一の理由は、豪華メンバーで強かったこと。つまり、実力の面で夢のようなチームだった。そして第二の理由は、そのようなメンバーが出場に同意したことである。米国のプロスポーツのセンスで言うと、こちらのほうが「ドリーム」なのかもしれない。

 日本人にとって、オリンピックに出ること、メダルを獲得することは、疑いもなく、スポーツ選手の究極の目標の一つである。しかし、NBAの選手には、これは当てはまらない。なぜなら彼らは、NBAの選手であることによって、すでに名声と富を手にしているからである。オリンピックに出場しても、よりよい将来が約束されるわけではないのだ。だから、ドリームチームのメンバーは、多数の候補から選抜され、選ばれなかった選手は残念に思った・・わけではない。それにもかかわらず超一流がそろったのは、HIV感染を理由に現役引退を表明していたマジック・ジョンソンの説得によるものであるらしい。そのおかげで、すごい選手が揃ってしまったところがドリームなのである。

ドリームチームがNBAを国際化した

 1992年の成功を契機に、オリンピックと世界選手権に出場する、NBA選手で構成される米国代表をドリームチームと呼ぶようになった。つまり、ドリームチームは固有名詞ではなく、普通名詞になった。そして、普通名詞になったドリームチームは、あまり勝てないのである。

 理由はいくつかある。第一は、必ずしも、その時点でNBAに属する米国人選手で最強のメンバーが選ばれていないことである。第二は、1992年のメンバーが豪華すぎたこと。もちろん、1992年のメンバーと2004年のメンバーが試合をすることはないので、これは客観的な「理由」というより「見解」に過ぎないのかもしれない。とはいえ、1992年のドリームチームのメンバーの中に、NBA史上選りすぐりの選手が多かったのも事実である。

 そして第三の理由は、他の国が強くなったことである。

 では、なぜ他の国が強くなったのか。

 きっと理由は一つではないのだけれど、私は、ヨーロッパの少年たちが、バルセロナオリンピックのテレビ中継で、ドリームチームを見てしまったからではないかと思っている。あれを見て、バスケットボールのスター選手を夢見る少年が増えたのである。社会主義国のステート・アマがトップ選手なら、見ることのできる夢はない。

 そして各国のバスケットは選手の素質が向上し、国内リーグのレベルが上がり、やがてNBAにスカウトされる選手が増加し、彼らはオリンピックと世界選手権では母国の代表として活躍する。現在、NBAの外国人選手は80名を超えている。ドラフト1位で指名される選手も多い。サッカーなら、ふだんはヨーロッパのリーグで活躍するブラジル人選手が、四年に一度のワールドカップでは黄色のユニフォームで活躍する。同じことである。

 つまり、ドリームチームは、ドリームを世界にひろげたのである。

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