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第19回:コテコテの韓国プロバスケ(その2)
2008年4月
武藤泰明

大音響

 前回書いたように、韓国プロリーグのバスケットの選手は、とんでもない大音響の中で試合をしている。 何が大音響かというと、MC(マスター・オブ・セレモニーの略。要は司会者)がマイクで目の前の試合の実況をしていて、叫び続けている。実況の合い間、というより実況にかぶさるように音楽が流れる。これも大音響。音が途切れないのである。

そしてこれ以外に、ホームチームのMCがいる。白のパンタロンスーツを着た(つまり普通に街中にはいないような服装の)男性で、マイクは持っていないが、ハングルの書いてある1メートル四方くらいのボードをいくつか用意していて、この男性がゲームの展開に応じてボードの1つを掲げると、観客が一斉に声援をおくる、というより叫ぶ。たぶんボードに書いてある字を叫んでいる。「がんばれ」とか「シュートだ」「逆転だ」とか書いてあるのだろう。

こんなにうるさくて選手は集中できるのかと思うのだが、当たり前のようにゲームをしている。私はbjリーグを見たことがないのだけれど、MCがいて試合中に実況や音楽が入るのはbjもKBLも同じだが音の大きさが違うと学生が言っていた。MCも1万人の観客も叫び続けている。

練習よりショーを優先

 唖然としているうちにハーフタイムになった。ハーフタイムの最初は、日本でいうと小学校低学年の子供の試合。その後は、どこでもやるようにチアリーダーのショーと、観客が参加するゲームである。

その間も実にうるさいのだが、後半開始少し前になって、アウェイ側のチームは出てきて練習を始めたのに、ホームのSK Knights は、なかなか出てこない。アウェイのチームがコートを半分使って練習している間、残り半分のコートで、チアリーダーは飛んだり跳ねたりを続け、大音響が続き、そして後半開始ぎりぎりになってやっとSK Knights が登場し、練習なしに試合再開になった。ハーフタイムショーを、ホームチームの練習より優先しているのである。

フリースローのスポットライト

 後半も大音響の連続だったのだが、もっと驚いたのは、リングの上、あまり高くないところに、スポットライトが8つ並んでいたことである。

会場には大画面のスクリーンが1つある。フリースローの時にはシュートする選手を、スポットライト近くにあるカメラから映しているのだが、スクリーンを見て驚いた。選手の顔に強いスポットライトが当たっているのだ。選手の顔が、テカテカ光っている。

それで気がついたのだけれど、スポットライトは、フリースロー以外のときでも、リングの前を上から照らし続けていたのである。だから、シュートするとき、選手は相当眩しいはずである。

コテコテ環境が意味するもの

 日本だったら、この音響と照明、それにハーフタイムもチア優先、ショー優先で練習なしでは、試合なんかできるはずはないということになるんじゃないかと思う。そんな劣悪な「コテコテ環境」の中で、選手は平然と試合をしている。要は徹底的に「観客第一」なのである。観客を喜ばせることが、すべてに優先しているのだ。

 これは競技会ではない。はじめはそう思っていた。でも、このような環境のプロバスケットリーグで試合をしている選手の中から韓国代表が選抜され、しかもかなり強いのである。

韓国も、代表の育成や強化を軽視しているわけではないと思う。プロリーグの存在は、そのためにきっと貢献しているはずである。でも、リーグ戦は観客のためにコテコテ環境で行われているのだ。これはこれで筋が通っている。要はいろいろな考え方や、やり方があるということなのだ。

それに、ふだんこんな環境で試合をしていれば、ワールドカップやオリンピックのような大観衆と歓声の中でも、固くならずに平常心でいられるのではないか。韓国の選手は、このコテコテ環境によって、ある意味では鍛えられているのだと思う。

すごいものを見たというのが、素直な感想。世界は広い。


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