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第15回:ドラフト制度
2007年12月
武藤泰明

米国にあってヨーロッパにないのはなぜか

 日本ではドラフトというとプロ野球である。毎年秋に、球団が欲しい選手を指名する。米国の4大スポーツはすべてドラフト制度を採用している。日本のプロ野球のドラフトも、MLBにならった(同じではないが)ものだと言ってよいだろう。

 ドラフトの最大の目的は、戦力を均衡させ、試合を面白くすること。たとえば突出して強いチームがあって、シーズン半ば過ぎに優勝が決まってしまうとすると、その後は試合に対する興味が半減する。そうなると、たとえばテレビの視聴率が上がらない。放送権料の価値も下がるだろう。シーズンの最後まで興味を持ち続けてもらうためにドラフトが必要なのである。上位チームによるプレーオフ制度も、優勝決定までの期間を長くするための仕組みだという点では、目的はドラフトと同じだと言えるだろう。

 サッカーにはドラフト制度がない。この理由を考えてみると、第一に、欧州のクラブチームは、弱くても地元のファンが応援してくれるので、入場者が多い。でもそれでは放送権料は入らないんじゃないかという疑問が湧く。これに対する答えが第二の理由で、欧州のテレビは日本と同じで国営など公共放送があった・・というより、日本より公共放送中心だったといってよいだろう。公共放送は視聴率を気にしないわけではないのだが、米国のテレビ、あるいは日本の民放に比べると視聴率に敏感ではないし、放送権料をチームに支払うという習慣がそもそもなかったのである。逆にいえば、米国のプロスポーツのドラフト制度は、民放テレビ、そしてその後の有料テレビと一体のものだということである。

 ヨーロッパでも最近は民放や有料放送が増えて、各国のサッカーリーグは放送権料を主要な収入源とするようになった。そうなると戦力の均衡が必要に思えるのだが、同時に人気が上昇しているのがチャンピオンズ・リーグやUEFAカップのような、各国リーグの上位チームによる国際試合である。国内リーグで戦力が均衡すると、リーグ戦は激戦になるが、優勝ないし上位チームが国際試合に出ても勝てない。それより、国内リーグは戦力不均衡でも、突出して強いチームがあって、国際試合でも勝てるというほうが面白い。つまり、米国は国内で完結するのでドラフト制、欧州のサッカーは、国内リーグはある意味で国際試合の予選なので戦力不均衡が許容されるということなのだろう。これがドラフト制度が導入されない第三の理由であると思う。

スポーツの発展がドラフトにつながる

 日本のプロ野球も、かつてはドラフト制度がなかった。だから長嶋、王のいたジャイアンツが9連覇を成し遂げた。ドラフト制度導入後はジャイアンツのような圧倒的に強いチームはないので、いろいろ批判もあるようだが、ドラフトはある程度成功したということができるだろう。

 でも、でははじめからドラフトがあればよかったかというと、おそらくそうではないんじゃないかと思う。プロ野球の人気が上がるためには、ジャイアンツという「日本代表」が必要だったのだ。プロレスで言えば、力道山が日本代表として、ルー・テーズやデストロイヤーと闘っていた。これも同じである。つまり、スポーツにはきっと「発展段階」があって、日本では、普及の初期には、発展のためのエンジンとして「日本代表」みたいなチームが不可欠なのである。そしてある程度レベルが上がって、複数のチームで優勝を争うことがビジネスの拡大につながるという段階ではドラフトが有効になる。

バスケットはドラフトより前に「日本代表」?

 さて、バスケットボールは、NBAにはドラフトがあるが日本にはない。にもかかわらず、圧勝するチームがないのは、おそらく、チームがお金で選手を集めていないからである。JBLはレラカムイを除きアマチュアなので、そもそも年俸を上げて選手を集めるということがない(レラカムイはプロチームだが今のところ最下位なので、高年俸で優れた選手を集めているわけではなさそうである)。プロのbiリーグはサラリーキャップを導入していて、しかもあまり多額ではない。したがって、どちらの場合も、ドラフトによって戦力を均衡させる必要がない。言い方を変えるなら、ドラフト制度にしなくても、そこそこ戦力が均衡する。強い選手が特定のチームに集まらないのである。

 じゃあ今のままでいいかというと、おそらくそうではない。戦力の均衡の結果として競技は面白くなるが、一方で世界ではあまり勝てなくなるはずだからである。前述のように、欧州のサッカーは、戦力不均衡を認めることで、特定のクラブチームが国際試合で他の国のチームに勝つことを実現している。国際試合に出ていくクラブは、ある意味で国の代表なのである。このような事実に基づくなら、日本のバスケットボールには、一種の「ドリームチーム」があって、国内では常勝し、世界に出て行ってもある程度通用するという「発展経路」があってもよいのかもしれない。戦力均衡は、世界で勝てるようになってから考えるということである。

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