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第9回:指導者資格をとろう
2007年6月
武藤泰明

監督、指導者、評論家

 この間新聞を読んでいたら、スポーツ関係者が面白いことを書いていた。「映画監督はずっと映画を撮っていなくても職業は『映画監督』なのに、Jリーグの監督は辞めると監督と書けない」というもの。もと監督が新聞にコラムを書くと肩書きは「サッカー指導者」になる。

 ちょっと不公平だ。でも、野球の場合は監督をやめると、たぶん「野球評論家」。タレントという人も多いのだけれどそれはその人に才能があるからなので別として、サッカーが「指導者」で野球が「評論家」になるのは、私見だが資格のあるなしということではないかと思っている。つまり、サッカーの監督は、監督をやめても指導者資格を持っている。

 Jリーグの監督になるには、S級という、最上級の指導者資格が必要なのである。だから、昨シーズンまで現役で大活躍していた人が、つぎのシーズンからいきなり監督になることはまずない。人気という点では、プロ野球のように現役から「切れ目」なく、あるいはヤクルトの古田捕手のように選手のまま監督になったほうがいいと思うのだけれど、プロサッカーはこのメリットを捨てて、資格制度を厳格に運用しているのである。

 バスケットボールでも、日本体育協会と日本バスケットボール協会とが共同で指導者資格制度を設置している。国体などハイレベルな公式競技に出場するチームには、公認コーチがいなければならない。

資格制度のメリット

 資格制度には、いくつかのメリットがある。第一に、指導者を探そうという場合に「市場」が形成される。わかりやすく言えば、候補者リストがあるということ。因みに、サッカーのS級ライセンス保有者は約300人。Jリーグは31チーム、JFLを加えても50に満たないので、これ以外のチームでも、よい指導者を得たいと思えばS級の中から探すことができる。

 第二は、資格更新のためには知識も更新しなければならないという点。つまり、協会が提供するプログラムを受講し続けなければならないので、資格があることは最新の知識を持っていることを意味しているのである。個人の側から言えば、指導者になろうと思うなら資格が不可欠であるし、資格を持ち続けるということは、知識を更新するための教育を受ける権利を持つということでもある。

 ただし、ライセンスを持つことは、指導者になるための必要条件ではあるが十分条件ではない。とくに、ライセンス保有者が多い場合はそうである。プロサッカーでは、戦績がよくなければ監督は更迭される。日本代表でもそうである。勝てない理由はおそらくいろいろなのだけれど、監督が代わると急に勝ちはじめるチームも多い。要するに、指導者の存在はきわめて大きいということなのである。これは日本代表でも、地域の小学生のチームでも変わらない。

ボランティアも競争の時代

 サッカーのS級ライセンス保有者も多いのだけれど、もっと多いのがスポーツドクター。資格認定機関が3つあって、資格保有者は合計すると約1万人である。もちろん、全員医師資格を持っている。したがって、スポーツドクターもサッカー指導者も、おそらく供給過剰である。言い換えるなら、資格を持っていることは、経済的に生活できることを保証しない。それにもかかわらず、多くの人が資格を取りたいと考えるのは、その資格を持つことによって、「お金にはならないけれどスポーツに貢献する人生」を送りたいと考えているからなのだろうと思う。そしてそうだとすると、資格のない人は、スポーツに貢献する人生を送ろうと思っても、だんだん難しくなるということでもある。ボランティアというと、意志のある人は誰でもできそうに思える。しかし実際は、ボランティア希望者が多い場合、そこには競争が生まれるのだ。

指導者になろう。指導者をさがそう

 この雑誌の読者はきっと若い人が多いと思うのだけれど、第一に、将来の選択肢の一つとしてぜひ考えてみてほしいのは、バスケットボールの指導者資格を取得すること。進学する学校を選ぶのとは違って、他の選択肢を妨げない。資格を持っても、すぐに指導者にはなれないのだろうけれど、バスケットの最新知識を、常に持つことができる。これは、かなりかっこいいことである。幸いに、あるいは残念ながらというべきかもしれないが、バスケットボールの指導者資格保有者は、協会のサイトを見ると、まだあまり多くないらしい。だから資格を取れば、指導者になれるチャンスが大きい、大きくなるのではないかと思う。

 第二に、これはすぐできるかもしれないのだけれど、もし自分が属するチームに現在指導者がいない場合は、ライセンスを持つ指導者を探してみること。面白いのは、中学や高校の部活の顧問の先生はバスケット未経験者なのに、書道部の顧問をしている国語の先生や、いつも天体望遠鏡で星ばかり眺めている理科の先生が、実はライセンスを持っていたりすることである。そんな先生を探し出せたら、もう最高じゃないかと思うのだ。

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