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第8回:放映権料はなぜ上がるのか
2007年5月
武藤泰明

スポーツの放映権料が高くなっている

 最近の日本のスポーツで、ビジネスとして成功したものを挙げるとすると、やはり一番はプロサッカーということになる。1993年に10チームで始まったJリーグは、2007年シーズンは31。現在、J2をもう少し増やそうという構想があるので、チーム数はさらに増えていくと思われる。

 では、日本のプロサッカーが、たとえば欧州以上に発展して、欧州にキャッチアップしているのかというと、残念ながら現実はそうでもない。欧州のサッカービジネスは、日本以上に発展している。つまり、収入が増えている。そしてとくに増えているのが、放映権料なのである。

 この連載でも一度書いたのだけれど、競技としての魅力があればテレビで放送され、スポンサーも獲得できる。そうすれば強い選手を獲得できて競技の魅力がさらに高まるという「良い循環」が生まれる。この点では、欧州のサッカーは、日本より先を行っているし、日本もがんばっているのだけれど、差は開いてしまった。

 サッカーだけではない。オリンピックの放映権料も上がっている。NBAも、MLBも日本に比べるとはるかに高い。なぜそうなるのか、というのが今回のテーマである。

日本の観客を相手にしているだけでは、放映権料は上がらない

 第一の理由は、日本のスポーツを見ようという人が、日本人に限定されるという点である。つまり、どんなにがんばっても1憶3000万人という「天井」より上にはいかない。米国人は3億人いる。ここでまず差がつく。

 ただし、国の人口だけの問題ではない。サッカーで言えば、英国(あるいはその一部であるイングランドやスコットランド)、ドイツ、イタリア、フランス、スペインの人口は日本より少ない。にもかかわらず放映権料が高くなるのは、欧州の人々は、いろいろな国のリーグ戦を見ているからである。あるいは、スペインの人口は日本より少ないが、中南米のスペイン語圏人口を合計すると日本よりはるかに多い。ポルトガルの人口はわずか1000万人だが、同じポルトガル語を話すブラジルの人口は日本より多いし、アフリカ圏のポルトガル語人口も、本国の人口の数倍になっているのである。日本人は経済活動では全世界に展開しているが、日本語圏は日本だけである。この差が大きいということだ。

 言語以外の問題もある。MLBは最近日本人選手が急増しているが、その結果として、MLBを見たいという日本人が増える。松坂の移籍金は「もとがとれる」のである。バスケットでいえば、NBAの試合に姚明が出ているので、NBAは放映権を中国に売ることができる。野球のMLBとバスケットのNBAはいわゆる「頂点」なので、自国の選手がそこで活躍すればみんな見たいと思うのである。つまり、レベルの高いリーグは、放映権を稼げる。

日本のテレビ番組は面白い?

 日本に固有の問題は、意外に思う人がいるかもしれないけれど、「テレビ番組が充実している」という点である。欧米に出張してテレビを見ると、日本によくあるようなドラマやバラエティは少ない。総じて、面白い番組が少ないという印象である。日本のアニメは世界中に輸出されているが、これも、面白い子供向け番組があまり作られていないためであるといえるだろう。日本のスポーツは、テレビ番組としては、競争の厳しい環境に置かれている。これに対して欧米では、他に面白い番組が少ないので、テレビ局がスポーツを買おうとするのである。

テレビそのものの変化

 でも、このような理由だけでは、実は放映権の高騰を説明しきれない。決定的な理由は、テレビそのものが変わってしまったという点である。

 どう変わったのか。簡単に言えば、国営放送のつぎに地上波の民放が登場し、さらにペイテレビが登場したことで放映権料が上がってしまったということができる。

 NHKは国営ではないが国営に準じるとしてまずNHKを考えてみると、スポーツ競技の放映権を買うためのお金は視聴料から支払われる。高いお金を払ってスポーツの放映権を買っても、視聴料を上げることはできない。そんなことをしたら、「自分はスポーツを見る気はない」という視聴者からクレームがつくはずである。

 地上波の民放は、収入をスポンサーから得ている。だから、視聴率が高いと思われる番組であれば、多くのスポンサー料をもらうことができる。とはいえ、視聴率が同じ20%であれば、もらえるスポンサー料はバラエティもスポーツも同じになる。だから、スポーツを民放が放映することによって放映権料は上がるのだが、「上がり方」には、おのずと限界があるのである。

 ペイテレビは根本的に論理が違う。どう違うかというと、「視聴者が払おうとする金額」に「視聴者の人数」を掛けたものが、テレビ局の収入になる。人数のほうは天井があるが、「払おうとする金額」のほうは、すごく高くなるかもしれない。テレビ局はそれを見込んで、高い放映権料を払おうとするのである。

 このようにして放映権料が上昇することは、競技団体にとって基本的に好ましいことである。しかし、全面的に好ましいかというと、実はそうでもない。なぜなら、ペイテレビの局と契約してお金を払わないと試合を見られないからである。逆説的だが、放映権料が高くなって競技団体がトクをすればするほど、視聴人口が減るかもしれないという問題が起きるのである。理論的には、放映権料と視聴人口は市場原理によってバランスして適当な金額に落ち着く。とはいえ、お金はないけれど見たいという人は、程度の差こそあれ排除されてしまうのだ。

 一方で、地上波は一つの競技を放送し続けるのにあまり向いていないという見解もある。ペイテレビなら、視聴希望者が少ない番組でも採算が取れれば放送する。多チャンネルの強みである。これに対して地上波の民放は多チャンネルではないので、視聴率の低い番組を放送すると収入の機会を失うため、人気のないスポーツや対戦を放送しにくいのだ。

 NHK、民放、そしてペイテレビ・・・どれに放送してもらうのがベストなのか。競技団体は、悩ましい問題に直面しはじめているのである。

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