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第5回:リーグ戦を見に行こう
2007年1月
武藤泰明

「代表好き」の日本人

 スポーツはテレビにとって、視聴率の取れる優れたコンテンツである。日本でも欧米でも、この点は同じである。ただ、日本人のスポーツ視聴には他の国にはない大きな特徴がある。それは「代表好き」だという点。代表の出場する国際大会や、国内の代表決定戦、あるいは日本一を決める試合の視聴率は高いが、それ以外はかなり低い。米国だと、いわゆる4大スポーツの放送権料はとても高いが、コンテンツは国内のリーグ戦、あるいはリーグ内のプレーオフである。欧州でもサッカーのプレミアリーグの人気チームの放送権料が高額で、視聴率も高い。これに比べると、日本人が見るスポーツは代表に集中しているといってよいだろう。サッカーなら、A代表、あるいはこれから北京オリンピックを目指すU21代表の視聴率が高い。陸上や水泳なら世界選手権。野球もWBCは高かったのだろうと思う。

 日本人のこのような特徴をうまく掴んでいるのが駅伝である。1回の放映(競技会)で日本一が決まる。駅伝チームのスポンサーにとっても、出場チーム数が少なくて、たとえ先頭を走らなくてもほぼ間違いなくテレビに映るのでメリットがある。マラソンだと自社がスポンサーをしている選手がトップ集団に入らないと映らないのでちょっとリスクがある。ついでに言えば、マラソンのオリンピック代表を決める競技会は複数に分かれている。1回で決めても良いと思うのだがそうなっていない。詳しい理由はわからないが、少なくとも視聴率について言えば、複数の競技で代表が決まるとすると、代表好き、あるいは代表決定戦好きの日本人はすべてのマラソン競技を見るので、スポンサーのつく競技会を増やすことができるというメリットがある。

 これに対してリーグ戦はなかなか優勝が決まらない。だから日本のテレビでは視聴率がとりにくい競技スタイルだといえるのだろう。昔の巨人戦の視聴率が高かったのは、「日本一」である読売ジャイアンツが、日本一になるプロセスを放映していたからであると考えることができる。プロレスはかつてはゴールデンタイムに放送していたが、これはおそらく、力道山やアントニオ猪木が日本代表とみなされていたためである。ところが、たとえば世界チャンピオンだったはずのデストロイヤーがバラエティに出るようになって、どうもあれは日本代表でも世界チャンピオンでもないということに皆が気付き始めて、視聴率が低下していったように思われる。

バスケットボールのテレビ放映が増えるためには何が必要か

 では、代表戦でも代表決定戦でもないリーグ戦が視聴率がとれるようになる、あるいはそのそもそもの前提として、テレビで放映されるようになるためにはどうすればよいのか。王道はおそらく、入場者数が増えることである。代表戦や代表決定戦は、視聴率が高いだけでなく、国内で開催されている競技なら入場者数も多い。競技場で見るのか、家で見るのかの違いはあるが、要は見たい人が多い。

 テレビ局やスポンサーも、試合を見に来る人が少ない競技なら、テレビで見る人も少ないに違いないと判断する。競技が面白くて、見に来る人も多ければ、テレビで放映しても視聴率が高くなるだろうと考える。だから放送される。

 で、バスケットなのだけれど、日本で放送しているのはほとんどNBAである。昨年はワールドカップが日本で開催されて、予選リーグは「日本代表」をテレビで見た人も多いと思うが、リーグ戦のほうはほとんど放送がない。バスケットボールのファンなら、もっと日本のリーグ戦をテレビで見たいと思うのだろうが、リーグ戦を競技会場で見たいと思う人がそもそも少ないので、放映されないのは仕方のないことなのだ。

 ではどうすればよいのか。バスケットボールの主催者であるリーグやチームは、もっと入場者が増えるように、工夫と努力を続けなければならない。これは言うまでもないことなのだけれど、ファンにできるのは、もっと試合を見に行くことである。前述の論理を続けるなら、

  1. 試合を見に行く人が増える
  2. 試合がテレビ放映される
  3. チームとリーグの収入が増える
  4. 強化費が増えてチームが強くなる
  5. 試合がもっと面白くなる
⇒1.試合を見に行く人が増える
という「良い循環」が、ファンが試合を見に行くことを出発点として生まれるのである。

 少し専門的な話をするなら、スポーツ組織の収入は、入場料だけでは、実は大した額にはならない。収入が増えて、強化費が増え、チームの魅力が増して試合が面白くなるためには、「スポンサーがつくこと」と「試合が放送されること」のいずれか、あるいは両方が必要なのだ。そしてスポンサーにとって、価値のあるチームとは、テレビで試合が放送されるチームである。したがってテレビ放送は、スポンサー獲得の前提となる。つまりチームの収入増加の機会は「入場料」→「放送権料」→「スポンサー料」の順になっている。したがって、みんなが試合を見に行けば、試合が面白くなるのである。

リーグ戦を見に行こう。

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