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読者が拓く!バスケットボール

第2回:派遣スタッフでチームをつくろう
2006年11月
武藤泰明

 今回は、バレーボールで起きた、ちょっとした「快挙」の紹介から。

 その「快挙」は、人材派遣会社に所属する派遣スタッフで構成されるチームが、2006年8月に行われた第39回全日本6人制バレーボール優勝大会で優勝したというものである。

 会社名はグリーンサポートシステムズ株式会社。チーム名も同じ。会社設立が平成12年。資本金1800万円。こう書くと失礼に聞こえるかもしれないがとても小さい。でも快挙は会社が小さいのに優勝したということではなくて、選手が派遣スタッフであるという点である。

 企業スポーツにおいて、選手と仕事とのかかわりには、いくつかのパターンがある。パターン1は、会社のチームには所属しているのだけれど仕事はしないでスポーツだけというもの。バレーボールだと、トップリーグは皆、あるいはほとんどそうなっているはずである。パターン2は、選手だけれど仕事もしている。ただし練習とか、対外試合については、それなりの便宜を図ってもらえる。国際試合に出るなら退職しなさいとか、有給休暇扱いにするとは言われない。会社のイメージアップに貢献しているのだから許容される。

 そしてパターン3は、少なくとも公式には、勤務先の協力はあまり得られないというものである。アマチュアスポーツで、会社の休みを縫うように競技に出場している選手は多い。会社や同僚に迷惑がかからないよう、選手は苦労している。大半の選手がそうである。パターン1や2に該当する選手は、少数に過ぎない。

 派遣社員によるチームも、パターン3に属する。というより、その中でもとくに条件が厳しいというべきだろう。なにしろ派遣社員なので、仕事は派遣先である。派遣先の会社は、その選手が良い成果を出しても、自社のイメージアップにはならない。だから便宜を図ってもらうことは、まず無理・・・無理でないとしても、とても難しいはずだ。

 賃金も時給である。制度上派遣期間中に有給を取得することもできるが、その日数は正社員に比べるともちろん短い。それ以外に休めばそれだけ賃金が減る。また、派遣先の会社は仕事があるから派遣スタッフを頼んでいるので、1チーム分まるごと有給休暇、あるいは有給でなくても休むというわけにはいかない。だから選手の派遣先は分散していなければならないはずで、そしてもしそうだとすると、ウィークデイの夜集まって練習するというのも難しい。練習日は多くて週2日ということになるのだろう。練習場所も自社施設ではない。コートを借りての、いわばジプシー生活になる。

 そんなチームが優勝したのは、派遣会社の社長が企業チームの監督経験者であり、また実業団を退職して派遣スタッフとして登録した選手、所属する実業団のチームが廃部になってやってきた選手など、レベルの高い選手が揃ったためであるらしい。ここで重要なのは「何だそうか、それなら優勝してもおかしくない」と考えずに、選手たちが仕事と競技の両立・・・だけではなくて、派遣と競技の両立を実現したことに驚き、エールを送ることなのだろうと思う。

 このように書くと、派遣会社のスタッフがスポーツを続けることには希少価値がある・・・逆に言えばとても困難なことなのだという印象を、読者は持たれるかもしれない。確かにそうなのだろうと思う。しかし同時に考えておいてよいのは、実は、スポーツを続ける際の「働き方」の選択肢として、派遣スタッフというのは、意外に魅力のあるものなのかもしれないという点である。というのは、大会などで職場を離れても、つぎの職場を派遣会社が探してくれるからである。

 選手が会社に直接雇用されている場合、正社員であってもアルバイトであっても、一定期間職場を離れるとなると、おそらく退職せざるを得ない。ということは、大会から戻ると、失業者になる。また仕事を探さなければならない。そして、職場を離れることが確実な人材を、企業は採用しようとはしないだろう。競技と仕事の両立の可能性は低いのである。何も会社が悪いわけではない。人材を育成しようとしているまじめな会社であれば、普通は社員の離脱を好まない。

 派遣スタッフであれば、選手の離脱に伴う代替的な人材の確保は、派遣会社がしてくれる。したがって、企業は安心して選手を受け入れることができる。そして選手は、大会に参加している期間の所得は放棄することになるのだが、大会から戻ってきたときに勤め先が見つかっている可能性が高い。そしてこれまで派遣スタッフとして勤務していた期間の経験や資格は、ある程度時給に反映される。リセットされることはない。そのほうが派遣会社にとっても合理的だからである。

 そこで、この項の読者に派遣会社の経営者がいたらぜひ検討していただきたいのは、女子バスケットボールのチームを作ること(男子でもよいのだが現実的にはまずは女子になるのだろう)。現役や引退したスポーツ選手の就労支援をしている派遣会社や人材サービス会社はあるのだけれど、私が考えるのはそれではなくて、何かの都合でバスケットから離れているのだけれど、チャンスがあればまたやってみたい、競技会に出たいと思っている人たちに機会を提供することである。現在の派遣スタッフでバスケットボール愛好者に呼びかけるのでもいいし、バスケットボールチームを作るのだと言って派遣スタッフを募集するのでもいい。もちろん両方で構わない。

 日ごろ、学生スポーツの選手を「教え子」として間近に見ていて分かるのは、彼ら、彼女らは、姿勢が正しく、快活で、ちゃんと挨拶ができる人たちだということである。個人競技であってもチームワークの世界で生きている。おそらく職業人としても、得難い存在になるのだろうと思う。そのような「仕事のできるアスリート」は、会社にとって歓迎される存在であり、派遣会社にとっても重要な経営資源になるはずである。

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