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地域経済の発展に向けて

第34回:沖縄キャンプ訪問記
武藤泰明

 春休みのゼミ合宿で、昨年に引き続き沖縄のプロ野球キャンプ地を見に行った。視察したのは沖縄市で広島カープの練習、那覇ではジャイアンツと楽天のオープン戦である。あわせて県庁のスポーツ振興課でキャンプ誘致と受け入れ施策についてお話を伺う。学生は毎年入れ替わるが私は2年連続で、とはいえ新しい発見も多い。1年間の変化、そしてこの連載の第12回でとりあげた宮崎と、昨年9月に訪問した北海道の士別(陸上競技のキャンプで有名である)を比較しながら考えてみたい。

○集積が集積を生む
 宮崎を訪問した頃とは違い、現在、プロ野球キャンプは沖縄が「一人勝ち」である。12球団中10球団が来ている。これ以外に韓国のチームもいくつか来ていて、硬式野球のキャンプができる施設はすべてどこかしらの球団が入っており、もっと希望もあるが断っているようである。この連載の第12回で述べたのは「集積が集積を生む」ことだが、そのとおりになっている。
 驚いたのはプロサッカーのキャンプも沖縄に集まり始めていたことである。昨年聞いたのは、陸上競技場はあるがグラウンドに芝生がないのでプロチームが来ないということだった。県がおこなったのは、芝生の養生ができる人材の育成と各地の競技場の指導で、グラウンドが劇的によくなって、やってくるチームが増えた。こういう話はクチコミで広がるのに時間がかかるが、沖縄の強みは琉球FCが今シーズンから創設されたJ3に入ったことで、このチームを通じてJリーグの中で情報が伝わる。

○沖縄と士別の悩み
 こう書くといいことずくめに見えるが悩みもある。第一は、沖縄のキャンプ誘致は、観光の閑散期対策で始まっているという点である。観光を通年で雇用機会を生み出す産業にするためには、閑散期の増客が重要で、1、2月のキャンプはその点で申し分ないのだが、実は閑散期以外、とくにハイシーズンに沖縄に来たいという観光客が増えても受け入れが難しい。なぜなら、那覇空港発着便を増やせないからである。滑走路増設計画があるが、供用開始は2020年3月である。それまでの間は、平均滞在期間を伸ばすことがほとんど唯一の観光客増加手段になる。つまり、沖縄全体としての「収容限界」は、空港がボトルネックになって予め決まっている。
 宮崎であれば、キャンプのために施設を整備し、この施設が通年で利用されれば投資の回収を見込める。沖縄の場合は、施設を整備してキャンプ以外のシーズンに利用者が来ても、それは他の観光客を排除することを意味する。県全体でみると、投資が回収できない。
 士別も似たような状況にある。ここは2007年の大阪世界陸上のときにドイツ代表がキャンプ地に選んだことで有名になった。昨年訪問したのは2020年オリンピック・パラリンピック東京開催が決まった翌日で、市の担当課にはすでにメディアから2020各国代表キャンプ受け入れについての取材が入っていた。それくらいキャンプ地として知名度が高いのだが、聞いてみるとキャンプが想定される期間には毎年の「常連」がいる。競技施設はあるし、道路も陸上競技の練習用に整備されているのだが宿泊施設に余裕がない。つまり、五輪代表キャンプを受け入れると常連を断ることになる。私は宿泊施設を新設して五輪終了後は高齢者福祉施設に転用してはどうかという提案をしてみたが、実現は簡単ではないのだろう。
 以上からわかるのは、沖縄と宮崎はどちらも「温暖の地」であり、これを強みとして競争しているのだが、実は置かれた状況が180度異なるという点である。宮崎はインフラ整備のための投資を、キャンプ以外のシーズンの誘致で回収できる。沖縄は、2020年までこれができない。士別の置かれた状況は沖縄に似ている。

○大分は投資を回収できるか
 大分はたぶん宮崎に近い。空港と宿泊施設のキャパシティが潤沢だからである。宿泊施設についてはたぶん宮崎より進んでいる。残るのはスポーツ施設の整備なのだが、では五輪キャンプ誘致を目的として整備すべきかというと非現実的である。1回の五輪キャンプのために投資しても回収できない。
考えてみたいのは、いろいろな種目の全国大会や国際大会を誘致することである。日本の種目横断型の統括団体としては日本体育協会、日本オリンピック委員会と、ワールドゲームズを統括する日本ワールドゲームズ協会がある。この3団体のいずれかに属している競技団体は91に上る。そして各競技団体は、いろいろなカテゴリーで全国大会を開催している。小中高生、大学生、社会人までで5カテゴリーで、男女別になっている種目も多い。つまり5ではなく10カテゴリーである。また日本サッカー協会にはサッカー以外にビーチサッカーとフットサルがあり、バレーボール協会の傘下ないし友好団体として9人制、ビーチバレー、ママさんバレーがある。したがっておそらく、91団体が毎年開催している全国大会は、91団体に10を掛けると910でこれは多すぎるかもしれないが、564くらいあってもおかしくない。564という中途半端な数字を持ちだしたのは、日本の都道府県数の12倍だからで、言いたいことは、毎月1回、全都道府県で何らかの競技カテゴリーの全国大会を実施しているはずだということなのである。1「日」ではなく1「回」である。つまり、大分県内で毎月何かしらの競技の全国大会が数日にわたって開催されることを目標にできるのである。

○一村一種目運動を
 ではどのようにしてこれを誘致するのか。考えてみたいのは「一村一種目運動」みたいなものである。「村」ではなく、行政単位の市町村でもよい。それもメジャーでない種目でよい。
 上述の日本ワールドゲームズ協会の会長はオリンピック体操メダリスト、後に参議院議員・国家公安委員長であった小野清子氏で、2013年の世界大会はコロンビアのカリ市で行われたのだが、そのカリ大会から帰国した同氏とお目にかかる機会があり、なるほどと思ったのは用具が必要な競技は普新興国や途上国には及しにくいのではないかというお話であった。理由はコストである。
 だから、低コストで、かつあまりメジャーでない競技を、それぞれの市町村が受け持つ。学生は運動部、文化部、帰宅部に関係なく、週1回はこのスポーツをする。週1が無理なら月1でもよい。そして成人を交えて、年1回この競技の市内大会、全村大会を行う。そして全国大会を誘致する。ふだんから実施している競技だからインフラは万全だろう。そうすればきっと、そこはその競技の「聖地」になる。そしてこの競技が盛んな海外の都市との交流が始まっていく。

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