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地域経済の発展に向けて

第24回:改正NPO法と観光振興
武藤泰明

 特定非営利活動促進法(NPO法)が本2012年4月に改正・施行された。大きな変更点は

  • 複数の都道府県にまたがる事務所を置く法人については、これまで内閣府所管であったものを、主たる事務所の所在地の都道府県の所管とする。
  • 事業目的に「観光」と「農山漁村又は中山間地域」の振興を加える。

である。
 観光と農山漁村又は中山間地域というと、何だか大分県のための法改正のようにも感じるが、おそらく同じ思いを持つ地方は多い。置かれた状況はどこも似たようなものだということであり、またしたがって、この法改正を活用できる地域とそうでない地域とで差がつくということでもある。ではどうするか。今回は観光振興について考えてみたい。

○日本人か外国人か

 観光庁は訪日外国人数の増加を重要な目標の一つとしている。では外国人はどのような観光地を訪れるのかというと、2つのパターンがあるように思われる。第一は、すでに確立された観光地の訪問である。換言すれば、日本人に人気のある観光地に外国人がやってくる。第二は、日本人に人気のない、あるいは知名度の高くない観光地に外国人が訪れるというものである。
 第二のパターンの成功例としては、この連載でもとりあげた北海道ニセコのスキーリゾートがある。オーストラリアの人々が、雪質がよく、自国から近く、夏(日本の冬)でもスキーのできる場所としてニセコを評価した。また韓国のゴルファーは自国のゴルフ場が高いので飛行機に乗って1泊2日で九州のゴルフ場にやってくる。これは円高で少し下火になったが、いわゆるアジア通貨危機までは九州の観光振興に大いに貢献した(ついでに言えば、アジア通貨危機は1997年7月からだが、これに先立つ同年1月、橋本首相と金大統領の日韓首脳会談は別府で開催された)。
 このような目立つ成功例はあるものの、外国人観光の多くは、日本人がよく行く場所に外国人が行くというものである。日本人が海外旅行する場合も同じであり、すでに確立された観光地を訪れる。もちろん、ものごとにはニセコのような例外がつきもので、このような成功をめざしてはいけないとは思わないし、目指す人がいてもよいのだが、定石としては外国人より日本人が先である。したがって、外国人より先にまず日本人に評価される観光地になることが重要であり、そうなれば日本人観光客が増え、次いで外国人も増えるかもしれないと考えればよい。顧客として第一に想定するのは日本人だということである。

○低頻度リピーターを捕まえる

 マーケティングは、とくにその初期において、大衆消費社会とともに発展してきた。発展の契機はテレビの普及であり、手法は広告、つまりコマーシャルである。対象となる商品は消費財であった。新製品をより多くの人が購入し、一度購入した人が同じものを使い続ける、つまりリピーターになることが目標とされた。この「使い続ける」、換言すれば再購入するサイクルは、比較的短い。カップラーメン、シャンプーなどを想像してみればよい。サイクルは長くて1か月である。リピートの頻度は高い。ハンバーガーショップならサイクルは1日かもしれない。
 これに対して、サイクルの長い消費財もある。典型は耐久消費財であり、PC、自動車、スマートフォンなどで、1年に一度買うという人は少ない。これらの製品のユーザーがつぎも同じメーカーの製品を買うと「低頻度リピーター」となる。旅行も同じで、同じ観光地に毎週、毎月来る人は少ない。梅雨どきに北鎌倉の明月院にアジサイを見に来る人、11月に京都へ紅葉を見に行く人は多い。皆年1回だが、立派なリピーターである。そして観光の場合は、このような「季節の名所」として評価が定着することによって、はじめての観光客も増加することになる。低頻度リピーターが新規顧客を生みだすのだ。

○CRM:もう一度来てもらうために

 では、はじめてやってきた旅行者は、どのようにしてリピーターになるのだろう。つまり、なぜもう一度来るのだろう、あるいは何度も来るようになるのだろう。  旅行に行って、「ここにはもう二度と来たくない」と思うことは少ない。そう感じるとすれば余程のことである。そうであるにもかかわらずリピーターは必ずしも増えないのだが、その理由の一つは別のところに行ってみたいからであろう。行ったことのない土地に行くのも、旅行の楽しみである。  そのような人に、もう一度来てもらうためにできることは何だろう。一つ考えられるのは、手紙や案内状を送ることである。電子メールでもよい。このような活動は、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)と呼ばれる。1 to 1(ワン・トゥー・ワン)マーケティングと呼ぶこともある。顧客一人一人を認識して、コミュニケーションをとることで関係を維持し続ける。
 CRMは、一つ一つの施設で行うのは、きっと大変、あるいは非効率的である。たとえば季節ごとの催事情報を知らせる場合、資料を各施設で作成するより、同じ地域の施設で共同で行ったほうがよい。また施設がホームページを持つことは最早当たり前になったが、では、顧客から収集したメールアドレスにメールマガジンを配信している施設がどれくらいあるかというと、おそらくほとんどないのではないか。そしてここに、NPO法人が果たす役割がある。
 考えてみたいのは、図のようなビジネスモデルである。図のpはプロモーションで、観光情報や案内を郵送したり、メールで送ることを意味する。各施設は、来訪者から住所、名前、メールアドレスなどの個人情報をもらう。個人情報については、プロモーションに使うことについて予め同意が必要である。それができたとして、プロモーションの方法は3つある。p1は、各施設が過去の来訪者に対して、手紙やメールを送るという活動である。

 これだけならNPO法人は必要なさそうだが、地域のイベント情報の集約、あるいは地域で共同利用するパンフレットなどの制作では役立つかもしれない。p2は、各施設のp1型の活動をNPO法人が代行するというものである。小さな施設では、webページの制作やメールマガジンのノウハウがないかもしれないし、面倒で何もしないということも多いのではないか。そんな場合にこのNPO法人が役に立つ。最後のp3は、NPO法人が、集約した個人情報を活用して、独自にプロモーションを行うというものである。
 それぞれの観光施設は、独自のプロモーションについてはp1かp2のいずれかの方法をとり、共通型のp3についてはすべての施設が利用する。これらのプロモーションによって、来訪経験者に対するコミュニケーションの頻度=密度は劇的に高まるはずである。

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