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地域経済の発展に向けて

第15回:米菓のブランドに学ぶ
武藤泰明

 地場産品にとって、ブランド化は成功の鍵の一つである。大分県で言えば、関アジ、関鯖、城下カレイなどは全国的に知られている。これらに次ぐ、あるいは匹敵するようなブランドが生まれることが重要である。
 しかし、ブランドがどのように形成され確立するのかについては、かならずしも「王道」がない。それがわかっていれば簡単なのだが、実際にはいろいろやってみてもうまくいかないことが多い。たとえば「いいちこ」や「吉四六」がブランドとして確立されている一方でなかなかそうならない焼酎も多いが、そのはっきりした理由を説明することは難しい。
 今回取り上げてみたいのは米菓、つまり「せんべい」や「あられ」である。主な産地は新潟で、新潟以外でもたとえば「草加せんべい」などがあるが、新潟は米どころなので米菓のメーカーが多い。業界の大手は売上高順に亀田製菓、三幸製菓、岩塚製菓、Befco(社名は栗山米菓)で、いずれも新潟の会社である。
 これらの会社はいずれも全国展開している。その意味ではもはや地場産品ではなく、販売しているのもナショナルブランドなのだが、重要なのはナショナルブランドがどのようにつくられてきたのかという点である。

○米菓の3大ブランド

 業界の人に聞くと、米菓で売上高が大きく、知名度の高いブランドは、売上高の順に柿の種(亀田)、ハッピーターン(亀田)、ばかうけ(Befco)である(写真参照)。この3つのブランドがどのような特徴を持っているのかをみてみよう。


 まず柿の種だが、この名前はブランドというより、よく知られた「普通名詞」である。業界2位の三幸製菓も同名の商品を出しているし、小さなメーカーもつくっているが、スーパーで柿の種といえば亀田である。もち米を原料とする小さな米菓とピーナッツが混ざっている。売り場については、定番の米菓の棚以外のところにも置かれる。たとえば夏場なら缶ビールの隣である。米菓ではあるが、商品特性も売り場もせんべいやあられではないということである。
 2番目のハッピーターンは、小さな楕円形の米菓が、キャンディのように、四角形の透明な包材で包まれている。いわゆるソフトせんべいで固くない。名前も外形もスナック菓子である。また普通のせんべいは塩や醤油で味付けしてあるが、ハッピーターンの味付けは「ハッピーパウダー」と名付けられた粉末によっている。この点もせんべいやあられと異なる。
 3番目の「ばかうけ」は、楕円形を少し変形させたような形状のソフトせんべいである。定番商品は「青のり味」だが、このブランドの特徴は、カレー味やチーズ味、あるいはサイズを小さくしたラー油味など、いろいろなバリエーションを作っているという点である。地域別に「ご当地ばかうけ」も数多く作られている。これらの「バリエーション型商品」は、スーパーの定番の棚に並ぶことはないが、売り場では一種の新商品として取り扱われるところが強みである。催事などでも売り場を確保することができる。

○3大ブランドは「リーダー型」ではない

 さて、教科書的な「原論」を整理しておくと、多くの商品分野において、売上高の大きい商品やブランドは、その商品ジャンルを代表するような性格を持っている。すなわち、いろいろな顧客層を対象にしていて、結果的にあまりクセのないものが多い。いわゆる「リーダー型」である。売上も大きい。この反対が「ニッチ型」の商品やブランドである。ニッチ型は、特定の顧客層を対象にし、商品に特徴や個性があり、したがって販売高も小さいが収益性が高い。
 しかし、上の概観からわかることは、米菓の中で売上の大きな3つのブランドが、いずれもリーダー型の商品ではないということである。換言すれば、典型的な米菓・・つまり「せんべい」や「あられ」ではないのだ。教科書的な原論、理論とは違うことが起きている。念のために言えば、これら3社は、いかにも米菓らしい米菓もつくっている。しかし、そのような商品の売上高は、柿の種、ハッピーターン、ばかうけと比べると小さいのである。
 典型的な米菓は売上が小さく、売上が大きい商品は、一般的な意味では米菓ではないような商品で、それが典型的な米菓とは異なる、新たな市場を形成している。言い方を換えるなら、ニッチトップ型の商品のほうが、リーダー型商品より売上が大きいという、一種の逆転現象が起きている。この理由を探るのも面白いのだが、後講釈にはあまり説得力がないように思える。実務的に重要なのは、逆転現象が起きているという事実に気づくことである。

○地場産品のブランド化は何を目指せばよいか

 さて、ここで考えてみたいのは、大分で(大分に限らず、日本中のいろいろなところで)検討されている、あるいは指向されている「地場産品のブランド化」のゴールはどこなのかということである。
 ブランドは、商品に付加価値をもたらす。これは間違いない。しかし、ではこれらの「地場ブランド」が、柿の種、ハッピーターン、あるいは「ばかうけ」のようになれるかというと、おそらく難しい。地場産品というニッチは形成できるが、そういった特性を持つ商品は日本中にいくらでもある。もちろん、ニッチが形成できないよりできたほうがよいが、そこで成長が止まってしまうということになるのだろうと思う。地場産品というジャンルの中での競争には勝てても、そもそもこのジャンルの規模が小さくて商品(ブランド)が多いので、絶対額としてはあまり大きくならない。
 結論として、目指してみてほしいゴールは、全国ブランド化である。そして、このゴールに至るためには、必ずしも「地場ブランド」として確立されるという段階を経る必要がない。というより、世の中に沢山ある地場ブランドと競争しなくて済む商品であることが重要なのかもしれない。標語ふうに言うなら「地域性より個性」なのである。

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