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地域経済の発展に向けて

第13回:デスティネーション・デベロップメント(目的地開発)
武藤泰明

デベロップメントとキャンペーン

 デスティネーション・デベロップメントというのは、少なくとも専門家の間ではよく使われる言葉だと思っていたのだが、インターネットで検索するとほとんどヒットしない。デベロップメントは「開発」で、簡単に解説するなら、観光の目的地(デスティネーション)を魅力的なものにするために、お金や人手をかけ(て開発す)るということである。

 似たような言葉にデスティネーション・キャンペーンというのがあって、これはネットでたくさんヒットするのだが、キャンペーンが「宣伝」なので、意味は観光の目的地を宣伝することである。

 両者の違いがどこにあるかというと、キャンペーンのほうは、観光地に手を入れない。現在の観光地をどのように宣伝し、集客を増やすかというところに重点を置く。これに対してデベロップメントは、観光地の、固い言い方をするなら「地域資源」をよりよいものにして、魅力を増すことで集客が増えることを期待する。またしたがって、キャンペーンを行うのは鉄道、航空、あるいは旅行会社が中心だが、デベロップメントの主体は、基本的にはそれぞれの地域である。

開発するのは誰か

 前回とりあげた宮崎県を例とするなら、スポーツ・キャンプの誘致活動はキャンペーンである。そして、誘致のためにグラウンドやランニングコースを整備し、宿泊施設をキャンプに適合するように改修すれば、これらはデベロップメントになる。すなわち、宣伝と開発が両輪となっているのだが、おそらく、この「開発」は、地元財源によって行われている。

 これに対して、同じ宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートは、2001年に倒産したものを、米国系の投資会社リップルウッドが買収し再建している。スポーツ・キャンプとの違いは、外から「お金」と「人手」が入っていることである。

 同じように、この連載の第3回に紹介した北海道のニセコ地区は、たまたまオーストラリア人がニセコに居住し、同国へのキャンペーンで成功したことを端緒として、海外からの投資を呼び込んでいる。この場合は人が先に来て、お金は後からである。

企業誘致の意味

 何も観光・レジャーやスポーツだけではない。大分県が誇る企業誘致を同じ視点で見るならば、「県によるインフラ整備(デベロップメント)と誘致活動(キャンペーン)」が成果を生んでいるし、あわせて重要なのは、大分県に立地しようという企業が、設備投資と人材の投入を行っていることであろう。

 もちろん、立地する企業が地元で人を雇用するから地域経済の発展があるのだが、その前提になっているのは、県外からのお金と人材なのである。そして、県外からのお金は「消費」ではなく「投資」として投下されている。これは、デベロップメントである。

 スポーツキャンプのソフト開発主体は外部

 スポーツの話に戻るなら、スポーツ施設でも、公共と民間では、施設で働いている人の数が明らかに違う。どちらが多いかというと、意外に思われるかもしれないが民間の施設のほうが多い。公共施設というと非効率で人も多いと考えがちだが逆なのだ。

 なぜ民間の施設のほうが人が多いかというと、民間施設は、働いている人が利用する人にサービスをする場所だからである。これに対して、公共施設というのは、人が人にあまりサービスせず、場所を貸している。だから人数が少ない。

 標語的にいえば、民間は人的サービス、公共は施設サービスということになるだろう。見方を変えるなら、公共施設を利用する時は、利用者は自分で自分にサービスをすることになっているのだということだ。つまり、利用者は公共施設を借りて、自分で民間のスポーツクラブを運営しているようなものなのである。

 この観点から宮崎のスポーツキャンプを見るなら、施設は公共も民間もあるのだろうが、トレーニングメニューやプログラムを考えているのは利用者である。つまり、外部の人材がコンテンツ(ソフト)を開発しているのだということができる。それだけでなく、利用者としてやってくる指導者は、仲間を呼んでくれる。この仲間も、コンテンツを開発できる人々である。

外部の人を仲間に引き入れる

 さて、このような検討から見えてくるのは「地域の活性化というのは、必ずしもその地域だけで行うものではないのではないか」という点である。

 活性化のための要素としては

  @ 地元によるハード整備(開発)

  A 地元によるキャンペーン(ソフト)

  B 県外からの人材

  C 県外からの投資

がある。この観点から、宮崎のスポーツキャンプ、大分の企業誘致、ニセコスキー場を整理すると表のようになる。

 スポーツキャンプやスキー場と企業誘致を並列にして論じることに違和感があるかもしれないが、表をみると、同じ枠組みで検討することができる、その意味があるということがわかっていただけるのではないかと思う。呼び込む、引き入れるという点では同じなのである。表には示していないが、APUについても同じであると言えるだろう。地元がインフラを整備し、誘致活動を行い、立命館が投資し、開設された大学が域外・海外から学生を集めている。

中長期的な発展のために

 外部資金や人材の導入には異論もあるだろう。たとえば湯布院温泉は地元の努力で成功し、外部資本の進出にはおそらく慎重なのだと思われるが、見方を変えるなら、外部の資本や人材が湯布院にやって来ることを望む状態に、すでになっているということである。重要なのは、域外の人や資本がビジネスを目的として来たくなるような地域になることであろう。

 では、どのようにして呼び込み、引き入れるのか。その答えは一律ではなく、地域によって異なる。答えを見つける、探すということは、地域の将来を考えるというのと同じである。観光客など、外部からの流入を増やそうとするのは、冒頭に示した区分にしたがえばキャンペーンで、一時的なものである。これに対してデベロップメントは、中長期的な視野で行わなければならない。そしてその主体は地元である。キャンペーンは国でもできるがデベロップメントは地域でしかできないのだ。

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