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地域経済の発展に向けて

第12回:宮崎訪問記
武藤泰明

 3月に学部と大学院のゼミ生あわせて30人ほどと一緒に宮崎で合宿をした。本当は大分に来て消費に貢献したいところなのだが、行き先を決めるのは一番下の学年(2年生)ということになっていて、上級生も教員(私)もこれに従う。

 学生が宮崎を選んだ主な理由・目的は、スポーツのキャンプ地を見ることである。教員の日程の都合で出発が3月8日に延期になり、したがってプロ野球もJリーグもキャンプは終わっていて、賑いはなく静かなのが少し残念だが、読売ジャイアンツが使用したサンマリンスタジアムには春休みを利用してどこかの大学が合宿に来ていて、施設はジャイアンツが帰ってもちゃんと稼働している。

 合宿にあたり私が学生に提示した課題は、この連載でも一度説明した「集積が集積を生む(そして、その周辺の集積はむしろ低下する)ことを実感し、その理由を考えること」である。そのために、スポーツ施設を見るだけでなく、県庁と宿泊施設を訪問して話を聞くという計画になっている。またしたがって学生は物見遊山ではなく、かなりハードな予備調査をしていく。

2つの発見

 現地での重要な発見と確認は、つぎのようなものであった。

1.宮崎県庁には「スポーツランド推進担当」という役職の職員がいる。

このかたには、県庁での講義をお願いした。宮崎県はスポーツ合宿の誘致を熱心におこなっており、そのための広報・営業活動を行う役職が商工観光労働部にある。彼はスポーツ合宿の資源(グラウンドや宿泊施設など)を持つ市町村と連携して誘致活動を行う。

現在の大きな目標は「フルシーズン化」と「多競技化」である。宮崎のキャンプ集積は野球からはじまり、最近はプロサッカー(Jリーグ)が多いのだが、この2つの競技のキャンプだけなら、稼働するのは2月だけである(ジャイアンツは最近は2月だけでなく、シーズン終了後の11月にも宮崎でキャンプを行っていることが多い。とはいえ、ジャイアンツだけでは集積にならない)。通年で使ってもらうためには、他の競技を開拓することが重要になる。

2.野球は最近沖縄でキャンプを張るチームが増え、これにかわってJリーグが宮崎に集中しはじめている。

 なぜスポーツのキャンプが特定の地域に集中するのかというと、もちろん気候もあるが、あわせて大きな要因は「練習試合」である。キャンプを張るチームが多ければ、練習試合の相手も多い。最近は、韓国や中国のプロサッカーでも、Jリーグが集積する宮崎でキャンプをしたいというチームがあるようだ。野球も今年は2チームが宮崎にキャンプに来ていた。そういえば、大学ラグビーの夏合宿も菅平に集積している。同じことなのだろう。

宮崎の3つの「山」

 さて、ここで宮崎の「集積の歴史」を振り返ってみたい。

 かつては、新婚旅行の地であった。これは、1960年に皇族のご夫妻がこの地を新婚旅行に選んだことを契機としている。  ブームが下火になったのは、日本人の所得上昇、そして円高による。つまり、外的要因である。

 次の「山」はバブル期のリゾートブームで、その象徴がシーガイアであった。運営会社はホテルに大規模なホールを設け、サミットの誘致を行う。2000年の九州・沖縄サミットでは宮崎で外相会議が開催され誘致の目的はある程度達成されたが、運営会社はこの翌年に会社更生法を申請する。シーガイアはハコとしてはまだあるが閉鎖されたままである。

 つまり、宮崎には3つの山があった。2つめのリゾートは、山になる前に低くなってしまったのかもしれない。そして3つめがスポーツキャンプである。

 念のために言えば、読売ジャイアンツの宮崎キャンプは1959年からはじまっている。つまり、新婚旅行ブームより先である。スポーツキャンプの山は、ブームではなく、時間をかけてじわじわと高くなっていったのだということである。

集積が集積を生む

 県のホームページによれば、平成21年度に宮崎でスポーツキャンプを行った県外の団体は 1,131、参加人数は 31,180人(延べでは 172,894人)である。春季キャンプに限定すると、418団体、12,634人になる。そして春季キャンプの観客数は 628,000人である。立派な山である。

 プロ野球やプロサッカーのチームだけでは、春季キャンプが 418団体にはならない。プロスポーツのキャンプを契機として、施設が整備されたり、あるいはキャンプ地として有名になることによって、他のスポーツの目が宮崎に向けられるようになったものと思われる。その意味では、やはり「集積が集積を生んでいる」のである。

山は、いつか低くなる

 ところで、この3つめの山を「分解」すると、すでに見たように、プロ野球の山は低くなり、Jリーグの山が高くなっている(観客数という面からみると、プロ野球のほうがまだサッカーより山は高いのかもしれないが)。1つの山が、いつまでも高いままということはないのである。そして、山が低くなった理由は、新婚旅行については所得上昇と円高、リゾートについてはバブル崩壊、そしてプロ野球については沖縄である。換言すれば、隣接する地域に負けたわけではない。円高とバブル崩壊は、外部環境である。沖縄については競争相手だが、少なくとも隣接していない。航空路線が整備され、運賃も安くなったことで、沖縄だろうがグアムだろうがハワイだろうが、どこでも競争相手になり得る時代になった。

 Jリーグの山が高くなった理由の一つは、チーム数がふえたことである。Jリーグは1993年に10クラブではじまり、現在は37クラブある。2月にキャンプを行うプロサッカーのクラブも、必然的に増えることになる。宮崎県はこのトレンドをうまく捉えた。ただし、サッカーのクラブが宮崎をキャンプ地として選び続けるかどうかは、プロ野球と同じでわからない。ちなみに欧州のサッカークラブのキャンプ地はトルコのアンタルヤに集積していて、Jリーグのクラブでもアンタルヤを今年のキャンプ地に選んだところがある。競争相手は多い。

 さて、このような経緯から言えるのは「長い目で見ると、集積は続かないかもしれない」ということである。コンピューターシミュレーションないし理論の世界では、集積は集積を生み、その隣接地の集積が低下する。一種の「自動的なメカニズム」である。しかし実際には、集積の山は、外的な要因や遠隔地の意外な競争相手によって低くなってしまう。

 逆に、宮崎県の例でわかるのは、当事者の努力によって山が高くなっているということである。つまり、集積は自然の産物ではなく、努力による成果なのである。

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