経済規模が大きいと貿易依存度が下がる
前回述べたように、仮に大分県が独立国家であるとすると、一人当たりGDPはイタリアに次いで世界23位、堂々たる先進国なのだが、その大分だけでなく、九州の他の6県も独立国家だと仮定してみる。そうすると、大分から他県に出荷すると「輸出」である。他県から仕入れると「輸入」になる。
つぎに、九州の7つの国が統合されて一つの国になったとする。そうすると、これまで「輸出」「輸入」であったものが「内需」にカウントされることになる。結果として、大分の「貿易依存度」は低下する。経済活動そのものは何も変わらなくても、国の大きさ、国境の場所によって、見た目の産業特性が変わってしまうのである。
もはや加工貿易立国ではない?
これを一般化して言うなら「経済規模が大きいと貿易依存度が下がる」ということになる。年配のかたなら、学校で「日本は加工貿易立国である」と教えられたはずである。たしかに輸出は日本経済にとってあいかわらず重要なのだが、加工貿易立国というほど、日本経済は輸出依存度が高くない。私や年配の読者が小学生だったころとは違い、現在の日本の経済規模は世界2位(残念ながらおそらく2010年には中国と逆転して3位になることは前回述べたとおりであるが)なので、GDPに対する輸出の比率は極めて低い。米国は経済規模が大きいのでさらに低い。日本は、経済規模に応じた程度に輸出比率が低くなったのである。
図は、アジア、欧州先進国、北米、ブラジル、オーストラリア各国のGDPと輸出比率(対GDP比)の関係を示したものである。左上から右下に、各国がきれいに並んでいることがわかる。ベトナムはちょっと外れているが、それ以外は「経済規模が大きいと貿易依存度が下がる」という命題を支持している。例外は少ない。ブラジルやオーストラリアは天然資源や食糧の輸出国なので輸出比率が高いのではないかと考えがちだがむしろ逆に低いという点にも注目しておきたい。むしろ、シンガポールや香港、経済規模の比較的大きな国の中ではドイツ、オランダのような、いずれも天然資源や食糧があまり潤沢でない国のほうが輸出比率が高い。
これからわかるのは、「資源大国」が資源の輸出で大きな輸出比率を実現しているのではないということだ。むしろ、シンガポール、香港、オランダのような資源小国が、通商、あるいはおそらく「加工貿易」によって、輸出比率を高めている。その意味では、経済大国であっても「加工貿易立国」という考え方は有効なのだと言えるだろう。
大分から県外への「輸出」は内需拡大に貢献する
さて、このようなことを頭に入れていただいた上で、日本の内需拡大を大分から考えてみたい。
まず第一に、大分の経済規模は小さい。日本全体の1%程度である。ということは、大分を一つの国と考えると、移出(他の都道府県や海外への出荷)比率はかなり高いはずである。つまり、大分県という「国家」では、産品が国(県)外に「輸出」されるのが自然なのである。
第二に、他の都道府県に出荷されたものは、日本という国のレベルでは「内需」になる。換言すれば、大分の産品が国内で喜ばれ、受け入れられれば、内需拡大に貢献するだろう。もちろん、海外に出荷されれば輸出である。これも経済成長に貢献する。
大分経済は「開放系」
では、実際には大分の県外への出荷は多いのか。それとも少ないのか。表は、九州7県のGDP(名目、2005年。以下同様)と移出入(国内なのでこの用語になるが、大分県が国家なら輸出入である)をみたものである。大分県の移出入は、ネットで586億円の黒字になっている。そして、GDPに対する移出比率は75%であり、飛びぬけて高いことがわかる。つまり、大分の経済は、海外、県外から多くを仕入れ、多くを出荷して成り立っているということになる。他の九州各県に比べると、「開放系」の経済構造になっているということもできるだろう。
移出入は無形の資産をもたらす
大分の移出率が高いのは、おそらく企業誘致に成功したためである。ただ、それだけなら、昔からあるような「工場立県」で、何も新味を感じないという人もあるだろう。また前回示したように、これからの経済の大きな特徴は「振幅」なので、工場立県には振幅のリスクが大きいという問題もあるのだろうと思われる。
しかし一方で、他の地域とのつながりは、あらたな事業機会を生む。これもすでに指摘したとおり、シリコンバレーはインドと取引したことによって、インドからの投資を呼び込んだ。つまり、移出入というモノの関係、経済的な関係は、関係する地域の人々のコミュニケーションや相互理解をもたらす。県にとって、これはきわめて重要な資産である。あるいは、大分には全国リーグに所属するレベルの高いスポーツチームが4つある。これらのチームも、リーグに所属して競技を行うことによって、地域間交流に大きく貢献しているといえるのである。APUにやってくる留学生が海外に飛び立っていくことも同じである。
さて、以上から導かれる結論は「開放系経済は域外との人的、あるいは情報ネットワークの形成をうながす」ということである。そして、このような無形の資産は、県の将来の発展をもたらす。経済とネットワーク、それぞれの成長が循環していく。大分県の移出率が高いということは、大分がこのような面で成功し、無形の資産を形成し、これが将来の発展のインフラとなることを示しているのである。