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読者が拓く!バスケットボール

第23回:ポジション
2008年12月
武藤泰明

ビッグ・マンのいないドリームチーム

北京オリンピックの男子バスケットボールは、米国が前評判どおり金メダルを獲得した。「前評判どおり」といっても、楽に勝ったわけではない。前にこの項でも解説したように、1992年のバルセロナ五輪では文字どおりのドリームチームだったが、その後、他の国の競技水準が向上したせいもあり、米国代表チームは「常勝」ではなくなったのである。アテネオリンピックも3位だった。

今回のチームの前評判が高かったのは、集まって練習を重ね、金メダルをとるのだというモチベーションが形成されていたためである。才能のあるNBAの選手をオリンピックの時だけ集めて勝てるほど、世界の水準は低くない。ちゃんと強化の戦略があったということである。

その強化の戦略とは、一つはチームとして練習をすることだがそれだけではない。もう一つはメンバーの選定である。今回のドリームチームには、身長の高いセンタープレイヤー、いわゆる「ビッグ・マン」がいないのだ。具体的には、ガード6人、フォワード5人、そしてセンター1人である。唯一のセンターはマジックのドワイト・ハワードで211センチ。この身長だと、NBAではビッグ・マンではない。ハワードのポジションはNBAの公式サイトでは「フォワード−センター」と記載されている。リバウンドに強い点はセンターとしての条件を満たしているが、フォワードもできるのである。NBA加入当初はフォワードの選手だった。つまりシャキール・オニール(216センチ)、ヤオ・ミン(229センチ)のような「センター専業」の選手がいないのである。

選手構成は戦略を反映している

このハワードが最も背が高く、他の選手は低い・・といっても、ガードのクリス・ポールが183センチなのを除くと、他のガード5人は190センチ以上で、フォワードはいずれも2メートルを超えている。日本人から見ると巨人の集まりだが、世界のバスケットボールの常識からすると小さい。そして、あえて「小柄」な選手を選んだのは、ディフェンス力とスピードを重視したからのようである。ビッグ・マンは、ゴール下を固め、リバウンドに備える。マンツーマンディフェンスには不向きである。ハードなディフェンスがもたらすターンオーバーの速攻にも加われない。つまり、戦略が求める戦力ではなかったということである。

俊敏な巨人

ここで考えてみたいのは、米国のドリームチームのメンバーが「小柄で俊敏」なことではない。なぜ「大柄なのに俊敏なのか」という点である。

米国の成人男性の平均身長は176センチで、日本人より6センチ程度高いのだが、190センチ、あるいは2メートルを超えるとなると、米国人としてもかなり大きい。そのような選手が、少年時代からの育成の過程で各チームのセンターないし「ビッグ・マン」にならず、ガードやフォワードでいたのはなぜかということなのだ。マジック・ジョンソンはガードだが、身長は203センチである。

ちなみに、日本代表(2007年の欧州遠征時)の身長は、ガードが179〜194、フォワード196〜205センチである。米国より5センチ程度小さいとはいえ、日本代表のガードとフォワードも、俊敏な巨人の集まりである。

分業する競技、オールラウンドプレイヤーを求める競技

比較のために野球を考えるなら、少年野球では「ピッチャーで4番」が多い。王選手は甲子園では投手、清原選手も中学まで投手である。これがプロ野球になると、パ・リーグでは投手は打席にも立たない。分業が進んでいる。アメリカン・フットボールは野球以上に分業が進んでいて、プロでは攻撃と守備は選手がすべて入れ替わる。プレース・キックだけを担当する選手もいる。でも、これからアメリカン・フットボールをはじめようという子供が、プレース・キッカーを希望するということは、おそらくない。上手な選手が集まるチームで分業が進んでいくと考えるのが自然である。

こんなことを頭に入れてバスケットボールを考えるなら、おそらく、能力の高いジュニア選手を、コーチはまずガードかフォワードにするはずである。バスケットボールは他の競技に比べて、ポジションの分業が進んでいない・・というより「しない」競技なので、ガードとフォワードの境界も曖昧だといえる。ある程度背が高く、ボール・コントロールのセンスがよく、シュートも入る選手は、背が高い「にもかかわらず」ガードかフォワードのままでいる。背が低い選手は、言わば自動的にまずガードかフォワードになり、そのうち何%かが身長190センチ、あるいは2メートルになる。つまり「俊敏な巨人」の形成過程は2種類あるが、出発点となるポジションがガードかフォワードだという点は同じである。このような選手がさらに選抜されて、高校や大学のレギュラー、さらにはNBAの選手になっていく。分業がないことが、俊敏な巨人の誕生の背景なのである。

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