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地域経済の発展に向けて

第22回:50歳女子
武藤泰明

 最近の新語のひとつに「女子会」がある。女性だけの宴会のことである。もともとは「笑笑」という居酒屋のパーティープランの名前だったらしい。今や普通名詞になっているが、気になること、気にしてみたいことは、この「女子」は、果たして何歳くらいなんだろうということである。

○「女子」は何歳まで?

 女子と言えば女子大生。22歳くらいまでである。女子社員というと23歳より上と考えるのは間違いで、昔は中卒、高卒が主力で、短大を出ていると高学歴だった。したがって、女子社員は、15歳から、あるいは18歳からで、では何歳までかというと、とくに決まりはないのだが20代までと考えれば、常識とかけ離れていなかったように思う。
 ところが、ある日電車の中吊りの女性雑誌広告に出ていたのが「30代女子」で、30代と女子と言う、あり得ない組み合わせを面白く思い、また自分のまわりでこれに該当する人を思い浮かべ、なるほどと思ったりもしたのだが、それからしばらくして、やはり中吊りに出たのが「40代女子」、そしてあまり間を置かずに、ついに登場したのが「50歳女子」だったのである。

○50歳女子の背景は何か

 環境分析や未来予測のための基本動作の一つは、「違和感のある情報に注意する」というものである。40代女子、ましてや50歳女子などあり得ないと言って切って捨てるのではなく、このような語が発せられた理由や背景を考える。
 まず第一に、雑誌社は、このような人々がいるんじゃないかと思っているはずである。そうでなければ、広告のコピーや特集にするはずがない。つまり、40代女子、50歳女子は、存在する。
 もう一つの基本動作は「知識の島に、橋を架ける」である。つまり、この40代女子、50歳女子という語を手がかりにして、自分の知識や情報収集力を総動員して、これらの女性のイメージや特性を明確なものにしていく。あるいは、その周辺で起きている大きな変化を見つける。

○国勢調査が示す大きな変化

 人口、年齢、世帯と言えば国勢調査である。最も新しいのは2010年調査で、これをみると分かるのは、第一に、男性中年層の未婚率が驚くほど上昇しているという点である。40代の男性の今や4人に1人は独身なのだ。当たり前だが男性は女性と結婚するので、男性の独身が増えると女性の独身も増える。
 第二に、中年女性の有業率が、この10年程度でかなり高まっている。このようなことから、独身の中年女性の増加をイメージすることができるのだが、注意しなければならないのは独身=単身ではないということである。男性の中年単身に比べると、女性の単身はかなり少ない。では、誰と暮らしているかと言うと、おそらく親である。

○親に面倒をみてもらい続ける独身女性

 この問題を反対側から見るために、たとえば65〜75歳の男性に着目するなら、この年齢になると、実は核家族が増える。夫婦2人、または自分達夫婦と子供である。高齢者と言うと単身、あるいは3世代というイメージを持ちがちだが、違うのだ。
 さて、その核家族だが、夫婦2人は良いとして、自分達夫婦と子供と言った場合の子供とは誰を指すのか。たとえば夫70歳、妻65歳とすると、子供は、おそらく40歳くらいであろう。そして、この40歳の子供が独身の女性であり、仕事をしているとすると、この家の「主婦」は、65歳の母である。山田昌弘が言う「パラサイト・シングル(注1)」、つまり親に寄生して生きる独身者は、もう少し若かったのだが、おそらくこのパラサイト・シングルが中高年化し、40歳になってしまった。そして、ここで例に挙げた世帯は、10年後には夫80歳、妻75歳、子供50歳で、この家の主婦は、あいかわらず75歳の妻というか母なのである。75歳と言うと後期高齢者の入り口で、行政からは福祉の対象と見られる。しかし実際には、このような現役主婦が多いはずなのである。

○75歳主婦の時代

 このような推察が正しいかどうかを検討するためには、自分自身、あるいは身近な人たちの世帯の実態に照らし合わせてみるとよい。おそらく、結構当たっているはずである。また現実は論理より多様なので、いろいろなバリエーションを見つけることもできる。たとえば、娘は単身ではなく結婚しているのだけれど、娘、その夫、子供が皆「75歳主婦」に面倒を見てもらっているような世帯など。またこのような検討から分かるのは、主役は「40代女子」「50歳女子」だとしても、その成立条件は「75歳主婦」なのだということであろう。
 「橋架け」をもう少し続けるなら、第二次ベビーブームは1970〜72年生まれなので、この世代全体が今年40代になる。大きな人口の山である。したがっておそらく、40代女子は急増する。また、夫婦と有業の子供とで構成される世帯は、いわゆるダブルポケット(親は年金収入、子供は給料)なので、所得が高く、豊かである。つまり、この世帯は、マーケティングの対象として重要である。

○モビリティの急速な高まり

 つぎに注目してみたいのは、自動車の運転免許である。地方都市では、ふだんの移動手段が自家用車だけという地域が多い。警察庁運転免許統計によれば、平成22(2010)年の女性の運転免許保有者は60-64歳344万人、65-69歳210万人、70-74歳113万人、75-79歳47万人である。年齢とともに保有者数が減少するのは、更新しない人がいるせいもあるだろうが、おそらく主な理由は、そもそも免許を取得したことのある人が、高齢者ほど少ないためであろうと思われる。そしてそうだとすると、2010年から5年経った2015年の65-69歳の女性の免許保有者は、210万人から340万人余に増加する。70-74歳では、113万人から210万人へと、ほぼ倍増することになる。そして、この世代の主婦の免許保有者が増え、モビリティが高まることによって、45歳の独身女子や子育て中の女子は、より自由に仕事ができるようになるのである。
 本稿の結論は、日本には新たな世帯像が生まれている、あるいは必要だということで、その中心的な役割を果たすのが、表舞台では50歳女子、そしてこれを支えるのが75歳主婦である。またこのような世帯のライフスタイルは、母(主婦)が自動車を運転するかどうかで変わるのだが、女性の運転免許保有率は大都市部より地方のほうが高い。つまり、あらたな世帯とライフスタイルが実現されるのは、地方が先なのである。

注1:山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房 1999

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